ヤロブアム1世一元化
紀元前928年頃、引き裂かれた外套の10切れが王を生んだ──
ヘブライ王国の分裂から崩御まで、初代イスラエル王国国王の全治世を一元化。
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本書について
紀元前928年頃、エルサレムを出た1人の労役監督が、真新しい外套を着た預言者アヒヤと出会う。アヒヤは其の外套を手に取ると12切れに引き裂き、10切れを差し出して斯う告げた——ヤハウェはソロモンの手からヘブライ王国を取り上げ、10部族を貴方に与える、と。外套を受け取った男の名はヤロブアム1世。ソロモンがダビデの町の破れ口を塞ぐ為にミロ(現在のパレスチナ国ヨルダン川西岸地区エルサレム県)へ砦を築かせた折、其の働きぶりを見込まれてヨセフ族の労役全体の監督に任じられた、其の人であった。本書は、此の10切れの外套を起点として、初代イスラエル王国国王ヤロブアム1世の治世を年月日単位で一元化した記録である。
預言を知ったソロモンはヤロブアム1世を殺害しようとし、ヤロブアム1世は初代エジプト第22王朝ファラオのシェションク1世の下へ逃亡して、ソロモンが崩御する迄其処に留まった。やがて北部の人々が軛を軽くする様レハブアムに訴えると、レハブアムは自身に仕える若者達の意見を採用し、其の通りの強硬な返答を行う。人々は其の支配を拒み、事態収拾の為に遣わされた役務長官アドニラムを石撃ちで殺害した。レハブアムは身の危険を感じ、戦車に乗り這々の体でエルサレムへ逃げ帰る。北部の人々はシェケムを首都として「イスラエル王国」を建国し、ヤロブアム1世を初代国王に擁立した。此れによりヘブライ王国は分裂し、南部は「ユダ王国」となってレハブアムが初代国王に即位する。レハブアムはユダ族とベニヤミン族から成る180,000名の兵を招集したが、預言者シェマヤが「上って行くな」というヤハウェの言葉を伝えると、征伐は中止された。
王座に就いたヤロブアム1世が恐れたのは、民の心であった。エルサレムのヤハウェの宮へ生贄を献げに上る様になれば、人心は再び主君レハブアムに帰り、自分は殺されるだろう——そう考えた王は、ベテル(現在のパレスチナ国ヨルダン川西岸地区ラマッラー・アル・ビーレ県)に金の子牛を造り、ダン(現在のイスラエル北部地区テル・エル・カディ)とテル・ベイティン(現在のパレスチナ国ヨルダン川西岸地区ラマッラー・アル・ビーレ県)の2ヶ所に其の祭壇を築いた。「もうエルサレムに上る必要はない」と王は語る。更に仮庵の祭りの日を第7の月の15日から第8の月の15日へ移し、祭司はアロンの子孫から選ばれるという定めを無視して、レビ人では無い一般人を祭司に任命した。信仰そのものを作り替える事によって、北の王国は南から切り離されたのである。
香を焚くヤロブアム1世の前に、ユダ王国から1人の神の人が現れる。神の人は祭壇に向かい、ダビデの家にヨシヤという名の男の子が生まれ、此の祭壇の上で香を焚く高き所の祭司達を生贄として捧げるだろうと預言し、印として祭壇が裂ける事を告げた。王が「彼を捕らえよ」と手を伸ばすと、其の伸ばした手は動かなくなり、祭壇は言葉の通りに裂けて灰を零した。神の人の祈りによって手は元に戻ったが、物語は其処では終わらない。ベテルに住む年寄りの預言者が、御使いの言葉を騙る偽の預言で神の人を連れ帰り、禁じられていたパンと水を口にさせた為、神の人は帰路で獅子に殺される。獅子は遺体を食べる事も驢馬を殺す事も無く、唯其の側に立っていた。此の様な事が有ってもヤロブアム1世はヤハウェの道に立ち返らず、祭司に志願した民衆を望み通りに其の座へ就けた。
紀元前922年頃、シェションク1世がパレスチナに侵攻する。ネゲヴ(現在のイスラエル南部地区)・エドム人の領地・イスラエル王国の領土が荒らされ、レバノンの森の宮殿に有った延金の盾までも奪われた。かつて自らを匿った庇護者の軍が、今度は自らの王国を蹂躙したのである。ヤロブアム1世はヨルダンへ逃亡してペヌエル(現在のヨルダンのアジュルーン県)に遷都し、更にティルツァ(現在のパレスチナ国ヨルダン川西岸地区ナーブルス県テル・エル・ファラ(北))へと都を移した。一方レハブアムはエルサレム神殿と王宮の宝物庫の財宝を差し出し、代わりに青銅の盾を作る。預言者シェマヤの言葉に「ヤハウェは正しい」と謙った事で、ユダ王国は滅亡こそ免れたものの、エジプト第22王朝の属国となった。
息子アビヤが致死性の高い病気を患った時、ヤロブアム1世は妻を変装させ、パン10個・菓子・蜜1瓶を持たせてシロのアヒヤの下へ遣わした。だが老齢で目が見えなくなっていたアヒヤは、足音だけで来訪者を言い当て、妻が一言も発しない内に告げる——ヤロブアム1世は此れ迄の誰よりも悪を行い、鋳物の像を造ってヤハウェを後ろに捨て去った、貴方が町に足を踏み入れる時アビヤは死ぬ、と。ヤロブアム1世に属する者で墓に入るのはアビヤのみである、という言葉の通り、アビヤは母の帰りを待って息を引き取った。そして紀元前910年、ヤロブアム1世は崩御し、息子ナダブが第2代イスラエル王国国王に即位して、父の始めた金の子牛の崇拝を其の儘踏襲する。引き裂かれた外套の10切れから始まった王国が何処へ向かったのかを、本書は一冊に束ねている。
登場人物
- ヤロブアム1世 本書の中心人物。初代イスラエル王国国王。ソロモンの下でヨセフ族の労役全体の監督を務めていたが、預言者アヒヤから10部族を与えるとの預言を受け、命を狙われてエジプト第22王朝へ逃亡した。ヘブライ王国の分裂後、北部の人々に擁立されて即位し、ベテルとダンに金の子牛の祭壇を造り、レビ人では無い一般人を祭司に任命して新宗教を打ち立てた。シェションク1世の侵攻を受けてペヌエル、次いでティルツァへ遷都し、紀元前910年に崩御した。
- ソロモン 第4代ヘブライ王国国王。ミロに砦を築かせた際、ヤロブアム1世の働きぶりを見てヨセフ族の労役全体の監督に任命した。しかしアヒヤの預言を知ると一転してヤロブアム1世を殺害しようとした。アヒヤの預言では、シドン人の女神アシュトレト・モアブ人の神ケモシュ・アモン人の神モレクを伏し拝んだ事が、ヘブライ王国分裂の理由として告げられている。
- レハブアム ソロモンの息子。初代ユダ王国国王。軛を軽くする様求めた北部の人々に対し、自身に仕える若者達の意見を採用して強硬な返答を行い、離反を招いた。ユダ族とベニヤミン族から成る180,000名の兵を招集してイスラエル王国を征伐しようとしたが、預言者シェマヤの言葉により作戦を中止した。シェションク1世の侵攻では、エルサレム神殿と王宮の宝物庫の財宝を捧げ、代わりに青銅の盾を作った。
- アヒヤ 預言者。真新しい外套を12切れに引き裂き、其の10切れをヤロブアム1世に渡して、イスラエル王国の王となる事を預言した。後年シロにて、老齢で目が見えなくなっていたにも拘らず、変装して訪れたヤロブアム1世の妻を足音だけで見破り、息子アビヤの死とヤロブアム1世への裁きを告げた。
- シェションク1世 初代エジプト第22王朝ファラオ。ソロモンに追われたヤロブアム1世を、ソロモンの崩御まで匿った。紀元前922年頃にパレスチナへ侵攻し、ネゲヴ・エドム人の領地・イスラエル王国の領土を荒らし、レバノンの森の宮殿に有った延金の盾を奪った。此の侵攻により、ユダ王国はエジプト第22王朝の属国となった。
- アドニラム レハブアムの役務長官。北部の人々との事態収拾の為に遣わされたが、石撃ちで殺害された。ヘブライ王国が南北に分裂する直接の引き金となった出来事である。
- シェマヤ 預言者。レハブアムに「上って行くな。貴方達の兄弟イスラエルの人々に戦いを挑むな」というヤハウェの言葉を伝え、イスラエル王国征伐を中止させた。シェションク1世の侵攻に際しても裁きの言葉を伝え、レハブアム達が謙った事でユダ王国は滅亡を免れた。
- 神の人 ユダ王国からベテルへやって来た人物。ヤロブアム1世の祭壇に向かい、ダビデの家に生まれるヨシヤによる裁きを預言し、祭壇が裂けるという印を示した。パンと水を口にせず元来た道を通らないというヤハウェの命に背き、年寄りの預言者の家で食事をした為、帰路で獅子に殺された。
- 年寄りの預言者 ベテルに住んでいた預言者。御使いの言葉を騙る偽の預言で神の人を騙し、自宅へ連れ帰ってパンと水を口にさせた。神の人の死後、其の遺体を驢馬でベテルへ持ち帰って自身の墓に葬り、息子達に、自らも神の人の側へ葬る様言い遺した。
- アビヤ ヤロブアム1世の息子。致死性の高い病気を患い、アヒヤの預言の通り、母が町に足を踏み入れた時に死去した。ヤロブアム1世の家の中でヤハウェに幾らか良いとされ、墓に入る事を許された唯一の人物である。
- ヤロブアム1世の妻 ヤロブアム1世の命により変装し、パン10個・菓子・蜜1瓶を携えてシロのアヒヤの下を訪れた。一言も発しない内にアヒヤに正体を見破られ、息子アビヤの死の預言を聞かされた。
- ナダブ ヤロブアム1世の息子。紀元前910年、ヤロブアム1世の崩御を受けて第2代イスラエル王国国王に即位し、父が始めた金の子牛の崇拝を踏襲した。
- ヨシヤ 神の人の預言の中に現れる人物。ダビデの家に生まれ、ベテルの祭壇の上で香を焚く高き所の祭司達を生贄として捧げると告げられた。ヤロブアム1世の造った祭壇に対する、遠い未来の裁きを担う名である。
主要な地名・拠点
- ミロ 現在のパレスチナ国ヨルダン川西岸地区エルサレム県。ソロモンがダビデの町の破れ口を塞ぐ為に砦を築かせた場所。此の工事でヤロブアム1世がヨセフ族の労役全体の監督に任じられ、全ての発端となった。
- エルサレム ヘブライ王国の首都であり、分裂後はユダ王国の首都として引き継がれた。ヤハウェが名を置く為に選んだ都とされ、民が生贄を献げに上る事をヤロブアム1世が恐れた対象でもあった。
- シェケム イスラエル王国の最初の首都。ヘブライ王国から離反した北部の人々が王国を建国し、ヤロブアム1世を初代国王に擁立した地。
- ベテル 現在のパレスチナ国ヨルダン川西岸地区ラマッラー・アル・ビーレ県。ヤロブアム1世が金の子牛を造った地。ユダ王国から来た神の人がヨシヤの出現を預言し、印の通りに祭壇が裂けた場所でもある。
- ダン 現在のイスラエル北部地区テル・エル・カディ。金の子牛の為の祭壇が造られた2ヶ所のうちの1つ。
- テル・ベイティン 現在のパレスチナ国ヨルダン川西岸地区ラマッラー・アル・ビーレ県。金の子牛の為の祭壇が造られたもう1つの場所。
- シロ 預言者アヒヤの住まう地。ヤロブアム1世の妻が変装して訪れ、息子アビヤの死とヤロブアム1世の家への裁きを告げられた。
- ペヌエル 現在のヨルダンのアジュルーン県。シェションク1世の侵攻を受けたヤロブアム1世が、ヨルダンへ逃亡した先に定めた都。
- ティルツァ 現在のパレスチナ国ヨルダン川西岸地区ナーブルス県テル・エル・ファラ(北)。紀元前922年頃、ヤロブアム1世がイスラエル王国を移した都。
- ネゲヴ 現在のイスラエル南部地区。シェションク1世のパレスチナ侵攻で荒らされた地域の1つ。エドム人の領地・イスラエル王国の領土と共に蹂躙された。
外套の10切れ、金の子牛、そして獅子に裂かれた神の人──
ヤロブアム1世の治世の全過程を一元化。
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