エリシャ一元化
ヨルダン川に7度身を浸した将軍、雪の様に白くなった従者──
王を立て、王を葬った預言者エリシャの全活動を一元化。
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本書について
紀元前861年頃、アラム王ベネハダデ2世が全幅の信頼を寄せる軍の最高司令官・将軍ナアマンは、ツァーラアトに罹っていた。治療の糸口を与えたのは、イスラエル王国を侵略した際に捕虜とされ、ナアマンの妻の召使となっていた1人の少女であった。「旦那様はサマリアに居る預言者の所へ行かれたら宜しいのではないでしょうか」──其の一言から、金68.4kg・銀340kg・着物10着という莫大な贈り物と国王の紹介状を携えた将軍が、敵国へ向けて出発する。紹介状を読んだイスラエル王国国王アハブは服を裂き「此れは侵略の口実を見付ける罠に違いない」と狼狽したが、預言者エリシャは王の下へ人を遣わせ「ナアマンを寄越して下さい。彼は、イスラエル王国には神の預言者が居る事を知るでしょう」と進言した。本書は、此の一件を起点として、預言者エリシャの活動を年単位で一元化した記録である。
馬と戦車を従えて玄関に立った将軍に、エリシャは姿すら見せず、使いの者を通じて「ヨルダン川へ行って、体を7回洗いなさい」とだけ伝えた。ナアマンは激怒した。預言者が直々に出て来て患部に手を当ててくれると思っていたのに、川で洗えとは何事か。バラダ川(現在のシリアのダマスカス県・ダマスカス郊外県)やパルパル川の方がよほど綺麗ではないか──憤慨して去ろうとする主君を、部下が説き伏せる。「体を洗って清くなれと言われただけの事ですから」。ナアマンがヨルダン川で7度身を浸すと、其の皮膚は幼子の様に艶々とし、ツァーラアトは跡形も無く消えた。戻って贈り物を差し出す将軍に、エリシャは「ヤハウェに懸けて、其の様な物を頂く訳には参りません」と断り続けた。ナアマンが求めたのは、代わりに2頭の騾馬に載せられるだけのイスラエルの土であった。
ところが、其の潔さの傍らに欲があった。従者ゲハジは「エリシャ様のお人好しも困ったものだ」と呟いてナアマンを追い掛け、山地から若い預言者が2人来たので銀34kgと着物2着を、と偽って求めた。ナアマンは倍の銀68kgを勧め、家来2名に持たせて同伴させる。ゲハジは受け取った物を隠し、何食わぬ顔でエリシャの前に出たが、「ナアマンが戦車から降りてお前を迎えるのを私は心の目で見ていたのだ」と見抜かれた。ナアマンのツァーラアトはゲハジと其の子孫に降り掛かる、と宣告された瞬間、ゲハジの肌は雪の様に白くなった。癒された者と、癒しの代価を掠め取った者が入れ替わったのである。
紀元前857年頃、本書はエリシャの出発点へと遡る。40日間何も食べずに約300kmを歩いてホレブ山(現在のエジプトの南シナイ県)に到着したエリヤは、洞穴で、ハザエルをアラム王に、ニムシの子イエフをイスラエル王国国王に、そしてアベル・メホラ出身のシャファテの子エリシャを自らの後継の預言者とせよ、という3つの油注ぎを命じられた。エリヤがアベル・メホラで見付けたエリシャは、12頭の軛の牛を前に行かせ、其の12番目の牛の側で畑を耕していた。通り過ぎ様に掛けられた1枚の外套。エリシャは父母への接吻を願い出た後、軛の牛を屠り、其の装具を燃やして肉を調理し、家族に振る舞ってから立ち上がり、エリヤに付いて行って仕えた。
紀元前851年頃、貢物を納めていたモアブの王メシャが離反する。討伐に向かったヨラム(イスラエル王国国王)・ヨシャファト・エドムの王は、迂回に7日を費やして部隊と家畜の水を失った。「エリヤの手に水を注いだ者」として名を挙げられたエリシャは、ヨラムに「アハブやイゼベルの預言者の所に行かれたら良いでしょう」と冷たく言い放ちながらも、ヨシャファトへの敬意ゆえに竪琴を弾かせ「風を見ず、大雨を見なくても、此の涸れた谷に水が溢れる」と預言した。翌朝、捧げ物を献上する頃、水はエドムの方から流れて来て谷を満たした。モアブ側では、剣を帯び鎧を身に付ける年齢に達した者全てが招集され、国境に配置された。
そして紀元前842年頃、ホレブ山で告げられた油注ぎが現実となる。エリシャが部下に命じてイエフに油を注がせると、イエフはイズレエル人ナボテの所有地でヨラムの心臓を弓で射抜き、逃げるアハズヤ(ユダ王国国王)にも傷を負わせた。同じ年、ダマスカスを訪れたエリシャは、ハザエルの顔をじっと見つめて泣き出し「貴方はイスラエル王国の若い男達・子供達・妊婦を剣で斬殺するだろう」と告げる。翌日、ハザエルは濡れた毛布でベネハダデ2世を暗殺してアラム王に即位した。時は下って紀元前798年、病床のエリシャを見舞ったヨアシュ(イスラエル王国国王)は、東の窓から勝利の矢を放ち、続いて矢で地面を打つよう命じられたが3回で止めてしまう。「貴方は5回、6回打つべきであった」──其れが最後の言葉となり、程無くしてエリシャは死去し、葬られた。
登場人物
- エリシャ 本書の中心人物。シャファテの子。アベル・メホラの出。畑を耕していた所をエリヤに外套を掛けられ、後継の預言者となった。ナアマンにヨルダン川での7度の沐浴を命じてツァーラアトを癒し、モアブ征伐では涸れた谷に溢れる水を預言し、ハザエルとイエフに王位を告げた。紀元前798年、ヨアシュに3本の矢を射させた後に死去した。
- エリヤ エリシャの先任の預言者。ホレブ山の洞穴で、ハザエル・イエフ・エリシャへの油注ぎを命じられた。アベル・メホラで12頭の軛の牛の側に立つエリシャに自身の外套を掛け、後を継ぐ者とした。
- ナアマン アラムの軍の最高司令官。将軍。ベネハダデ2世が全幅の信頼を寄せていたが、ツァーラアトに罹っていた。川で洗えというエリシャの言葉に一度は憤慨して去ろうとしたが、部下に説き伏せられてヨルダン川に7度身を浸し、皮膚は幼子の様に艶々として完治した。
- ナアマンの妻の召使の少女 イスラエル王国が侵略された際に捕虜とされ、ナアマンの妻の召使となっていた。「旦那様はサマリアに居る預言者の所へ行かれたら宜しいのではないでしょうか」と提案し、ナアマンがイスラエル王国へ向かう発端を作った。
- ゲハジ エリシャの従者。贈り物を受け取らずにナアマンを帰した主人に不満を抱き、後を追い掛けて銀34kgと着物2着を偽って求めた。ナアマンから銀68kgを受け取って隠したが、エリシャに見抜かれ、ナアマンのツァーラアトが自身と子孫に降り掛かると宣告されて、肌が雪の様に白くなった。
- ベネハダデ2世 第4代アラム王。ナアマンの為にアハブ宛の紹介状を書き、莫大な贈り物と共にイスラエル王国へ送り出した。紀元前842年頃、病床でハザエルにエリシャへの伺いを立てさせたが、其の翌日、当のハザエルに濡れた毛布を掛けられて暗殺された。
- ハザエル 第5代アラム王。病のベネハダデ2世の使いとしてエリシャを訪ね、「必ず治るが、直ぐに死ぬ」という預言と、自身がイスラエル王国に振るう惨禍の預言を受けた。其の能力は無いと否定したが、翌日ベネハダデ2世を暗殺して王位に即いた。
- イエフ 第10代イスラエル王国国王。ニムシの子。エリシャが遣わせた預言者仲間の若者にラモト・ギルアデで油を注がれ、アハブの家を撃つ使命を受けた。イズレエル人ナボテの所有地でヨラムの心臓を射抜き、アハズヤをも追撃して王位に即いた。
- ヨラム(イスラエル王国国王) イスラエル王国国王。離反したモアブを討つ為にヨシャファトを誘い、水を失った陣中でエリシャの預言を仰いだ。紀元前842年頃、イズレエルで迎えに出た所をイエフに心臓を射抜かれ、ナボテの所有地であった葡萄畑に投げ捨てられた。
- アハズヤ(ユダ王国国王) ユダ王国国王。ヨラムの見舞いの為にイズレエルへ向かった所でイエフの叛乱に遭遇した。ベテ・ハ・ガン(現在のイスラエル北部地区)の道へ逃走したが、イブレアム近くのグルへの上り道で傷を負い、メギドで崩御した。遺体はエルサレムへ運ばれ、ダビデ等の先祖と共に葬られた。
- ヨシャファト ユダ王国国王。モアブ征伐の遠征に誘われて同意し、自身が従えていたエドムの王と合流して南方から出陣した。水が底を突いた際にヤハウェの預言者を求め、エリシャの下を訪ねる契機を作った。エリシャは「ヨシャファトに敬意を抱いていなければ」ヨラムには目もくれなかったと語っている。
- メシャ モアブの王。100,000匹の子羊と雄羊100,000匹分の羊毛を貢物としてイスラエル王国に納めていたが、紀元前851年頃に離反し、反旗を翻した。
- ヨアシュ(イスラエル王国国王) イスラエル王国国王。紀元前798年、病床のエリシャを見舞い「我が父、我が父、貴方はイスラエル王国の力です」と泣いた。東側の窓から勝利の矢を射たが、矢で地面を打つ段では3回で止めてしまい、アラムを打つのも3度だけになるとエリシャに叱責された。
本書が記録する出来事
- 少女の提案とアハブの狼狽 紀元前861年頃、本書の起点。ナアマンの妻の召使であった捕虜の少女が、サマリアの預言者を訪ねる事を提案した。金68.4kg・銀340kg・着物10着と紹介状を携えた将軍の来訪に、アハブは服を裂いて「侵略の口実を見付ける罠に違いない」と取り乱したが、エリシャが王の下へ人を遣わせて事態を引き受けた。
- ヨルダン川の7度の沐浴 紀元前861年頃、エリシャは玄関に立った将軍に姿を見せず、使いの者を通じて「体を7回洗いなさい」とだけ伝えた。バラダ川やパルパル川の方が綺麗だと憤慨したナアマンは、部下に説き伏せられてヨルダン川に7度身を浸し、其の皮膚は幼子の様に艶々として、ツァーラアトは跡形も無く消えた。
- 贈り物の辞退と2頭の騾馬の土 紀元前861年頃、癒されたナアマンの贈り物を、エリシャは「ヤハウェに懸けて、其の様な物を頂く訳には参りません」と断り続けた。ナアマンが代わりに求めたのは2頭の騾馬に載せられるだけの土であり、リモンの神殿で主君の腕に寄り掛かる際に身を屈める事の赦しであった。
- ゲハジの欺きとツァーラアトの継承 紀元前861年頃、従者ゲハジはナアマンを追い掛け、山地から若い預言者が2人来たと偽って銀34kgと着物2着を求めた。ナアマンが倍の銀68kgを持たせたのを隠し通そうとしたが、「心の目で見ていた」エリシャに見抜かれ、其の肌は忽ち雪の様に白くなった。
- ホレブ山での3つの油注ぎの指示 紀元前857年頃、40日間何も食べずに約300kmを歩いてホレブ山(現在のエジプトの南シナイ県)に到着したエリヤは、洞穴で、ハザエルをアラム王に、ニムシの子イエフをイスラエル王国国王に、シャファテの子エリシャを後継の預言者とせよという言葉を受けた。バアルに膝を屈めなかった7,000名が残されている事も併せて告げられた。
- アベル・メホラの外套 紀元前857年頃、12頭の軛の牛を前に行かせて其の12番目の牛の側で畑を耕していたエリシャに、通り掛かったエリヤが自身の外套を掛けた。エリシャは軛の牛を屠り、其の装具を燃やして肉を調理し、家族に振る舞った後、エリヤに付いて行って仕えた。
- モアブ征伐と涸れた谷の預言 紀元前851年頃、離反したモアブを討つ3名の王が迂回に7日を費やして水を失った。「エリヤの手に水を注いだ者」として招かれたエリシャは、竪琴の音の中で「風を見ず、大雨を見なくても、此の涸れた谷に水が溢れる」と預言し、モアブへの勝利を告げた。
- エドムから流れ来た水 紀元前851年頃、預言の翌朝、捧げ物を献上する頃に水がエドムの方から流れて来て谷を満たした。連合軍が進軍すると、モアブでは剣を帯び鎧を身に付ける年齢に達した者全てが招集され、守備の為に国境へ配置された。
- イエフの叛乱とヨラム・アハズヤの死 紀元前842年頃、イズレエルの塔の見張りが「狂った様に御しています」と報告した通り、イエフが迫っていた。迎えに出たヨラムはナボテの所有地で心臓を射抜かれ、葡萄畑に投げ捨てられた。アハズヤも追撃を受けて傷を負い、メギドで崩御した。
- ダマスカスの預言とハザエルへの涙 紀元前842年頃、病のベネハダデ2世の使いとして来たハザエルに、エリシャは「必ず治るが、直ぐに死ぬ」と告げた。そしてハザエルの顔をじっと見つめて泣き出し、若い男達・子供達・妊婦への殺戮と要塞への放火、そしてアラム王への即位を預言した。
- 濡れた毛布による暗殺とラモト・ギルアデの油注ぎ 紀元前842年頃、ハザエルは翌日、寝台のベネハダデ2世に濡れた毛布を掛けて暗殺し、王位に即いた。同じ年、エリシャが遣わせた預言者仲間の若者がラモト・ギルアデでイエフの頭に油を注ぎ、家来達は上着を階段に敷いて角笛を吹き鳴らした。
- ヨアシュの3本の矢とエリシャの死 紀元前798年、本書が記録する最後の場面。病床のエリシャは、ヨアシュの手に自らの手を重ねて東側の窓から勝利の矢を射させ、アフェクでのアラム討伐を預言した。しかし矢で地面を打つ段でヨアシュが3回で止めた為、アラムを打つのも3度だけになると告げ、程無くして死去した。
ナアマンの完治、ゲハジの白い肌、ハザエルへの涙、そして3本の矢──
エリヤの後を継いだ預言者エリシャの全活動を一元化。
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