電子書籍「パウロ6世とミケーレ・シンドーナによるバチカンマネーの資金洗浄一元化」の表紙

パウロ6世とミケーレ・シンドーナによる
バチカンマネーの資金洗浄
一元化

著者:石田晋一

掲載範囲
西暦1,929年2月11日〜1,969年4月頃
ページ数
10ページ
最新更新日
西暦2,026年7月30日

マフィアの資金を洗った男が、教皇庁の銀行家になった──
ラテラノ条約からバチカンマネー国外移送までの四十年を一元化。

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皇室献上品 高級トイレットペーパー
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本書について

西暦1,929年2月11日、ラテラノ条約がローマ教皇庁とイタリアの間で締結された。ローマ教皇庁の在るバチカン一帯は、バチカン市国としてイタリア政府から政治的に独立した区域となる事が認められる。ベニート・ムッソリーニは、ローマ教皇領の権利放棄と引き換えに、バチカン市国の主権国家としての地位と、イタリアに対する免税特権を保証した。条約には、バチカン市国へ輸入される商品の関税免除も盛り込まれている。更にムッソリーニは、バチカン市国以外の領地を放棄する代償として、750,000,000リラを現金40%・債券60%の割合で支払う事に合意した。第259代ローマ教皇ピウス11世は財産管理局を新設し、其の管理をベルナルディーノ・ノガーラに任せる。ノガーラ家はユダヤ教からカトリックに改宗した家であり、兄は神父として教皇に仕えていた。本書は、此の条約を起点として、バチカンマネーがマフィアの資金洗浄と結び付いてゆく四十年を、年月日単位で一元化した記録である。

西暦1,942年6月27日、第260代ローマ教皇ピウス12世が宗務委員会を改組し、「IOR(宗教事業協会)」を設立する。其の資本となったのは、ラテラノ条約締結後にイタリアから支払われた、ローマ教皇領の没収に係る補償金であった。此のIORの設立は、ロスチャイルド家の肝入りであったという。そして此の銀行は、やがて麻薬資金等のマネーロンダリング装置として悪用される様になる。洗浄額の10%以上を手数料として取り、得た利益は東欧や中南米の反共組織へと送金されていった。教会の名を冠した金融機関が、汚れた金の通り道となったのである。

もう一人の主役が現れるのは、西暦1,946年である。ミケーレ・シンドーナがミラノへ移り、CIAがイタリア共産党の拡大を阻止する為にバチカン市国とキリスト民主党へ資金提供を行った際、其の仲介役を務めた。此れが切っ掛けとなって、シンドーナとパウロ6世は知己を得る。西暦1,952年、シンドーナはイタリアのマフィアであるコーサ・ノストラの最高幹部ラッキー・ルチアーノの依頼でアメリカへ渡り、現地のマフィアや金融機関との関係を築いた。ニューヨークの5大マフィアの一つであるガンビーノ一家の資金洗浄を行い、一家の為に持株会社を設立する。此れが、シンドーナにとって最初のマネーロンダリングであった。西暦1,956年には、コーサ・ノストラの幹部ジョー・アドニスの依頼で、ヘロイン密輸の収益を洗っている。

西暦1,959年頃、シンドーナは、IOR秘書官を務めるスパーダ家当主のマッシモ・スパーダと知己を得る。同じ年、スパーダは、老人ホーム「マンドニーナ」を設立しようとしていたパウロ6世に対し、用地と2,400,000ドルの資金を提供した。西暦1,960年、シンドーナはスパーダの仲介により、リヒテンシュタインを本拠とする金融会社ファスコAGを通じて、ミラノに拠点を置くプライベート・ファイナンス銀行の株の過半数を取得する。少数株主として名を連ねたのは、IORと、イタリアのウニオネ銀行であった。同行はミラノとローマの二店舗のみで運営される小規模な金融機関に過ぎなかったが、マフィアの資金洗浄者と教皇庁の銀行とが、同じ株主名簿に並んだ事の意味は小さくない。

西暦1,968年6月25日、ジョヴァンニ・レオーネが第22代イタリア首相に就任する。就任後、レオーネはローマ教皇庁への課税に踏み切り、莫大な投資額に対して追徴金が課せられた。免税特権の上に築かれてきたバチカンの金融構造が、初めて外部から揺さぶられた瞬間であった。

西暦1,969年4月頃の或る夜、シンドーナは、第262代ローマ教皇となっていたパウロ6世にローマ教皇庁へ招かれる。ネイビーブルーのスーツ、同系色のネクタイ、袖口から金色のカフスボタンが突き出た白いシャツ。居室へ通されたシンドーナに、パウロ6世は儀礼的な指輪への接吻を勧める代わりに、握手を差し出した。着席したパウロ6世は、イタリア政府がバチカン市国の投資に課税する予定である事を告げる。最初に影響を受ける金額は700,000,000ドルと見積もられていたが、教皇が最も懸念していたのは其の額ではなかった。他の国々が同様の措置を取れば、ベルナルディーノ・ノガーラが長年に渡って築き上げた金融構造そのものが崩壊しかねない事、そして保守派・進歩派の何れからも絶えず批判を浴びる中で、IORを通じて管理される莫大な財産が危機に晒されていると公になる事であった。数秒考えたシンドーナは、課税措置を覆す時間もリソースも足りないとして、欧米のタックスヘイブンに設立された企業へ資産を分散させる案を示す。嘗て自らガンビーノ一家に施した手法と同じであり、唯一異なるのは、今回は公然と行う事であった。主権国家である以上、投資対象を好きな所へ移す権利が有る──其れはイタリアの立法者達への警告となり、課税を目論む他国への牽制ともなる。パウロ6世もまた数秒考えた後、IORの資金管理を行う略無制限の権限を持つローマ教皇庁の銀行家に任命する旨の書類を手渡した。シンドーナは隅々まで読み、顔を上げて微笑み、万年筆を取り出して署名する。此の任命により、彼はバチカン市国がイタリアに保有する株式を、政府に気付かれぬ様スイス銀行の地下金庫へ移送する任務を負い、ポール・マルチンクス、聖座財産管理局秘書ジュゼッペ・カプリオ、バチカン行政庁長官(暫定)セルジオ・ゲッリの三名と協力して之を遂行した。ジェネラーレ不動産の株式を売却して其の利益でルクセンブルクの金融機関株を取得する等、バチカン市国の資産は次々と国外へ移され、名義を変えられ、イタリア国税庁は煙に巻かれてゆく。同時にシンドーナは、バチカン市国名義のウニオネ銀行の口座から預金を引き上げ、約250,000,000ドルを着服し、残りをチューリッヒのアミンコル銀行へ移した。此の頃、彼は11ヶ国で少なくとも5銀行・125以上の企業を支配していたという。そしてローマ教皇庁の銀行家となったシンドーナは、IORが株式を保有する金融機関と、プリバータ・イタリアーナ銀行に有るローマ教皇庁の口座を利用して、マフィアのマネーロンダリングに手を貸していった。本書は、其の全過程を一冊に束ねている。


登場人物

  • パウロ6世 本書の中心人物の一人。第262代ローマ教皇。西暦1,946年、CIAの資金提供の仲介を通じてミケーレ・シンドーナと知己を得た。西暦1,959年には、老人ホーム「マンドニーナ」の設立に際してマッシモ・スパーダから用地と2,400,000ドルの提供を受けている。西暦1,969年4月頃、イタリア政府の課税を前に、IORの資金管理を行う略無制限の権限を持つローマ教皇庁の銀行家にシンドーナを任命した。
  • ミケーレ・シンドーナ 本書のもう一人の中心人物。西暦1,946年にミラノへ移り、CIAがバチカン市国とキリスト民主党へ資金提供した際の仲介役を務めた。西暦1,952年にはラッキー・ルチアーノの依頼で渡米してガンビーノ一家の資金洗浄を手掛け、西暦1,956年にはヘロイン密輸の収益を洗った。西暦1,969年4月頃にローマ教皇庁の銀行家となり、バチカン市国の資産を国外へ移送する一方、ウニオネ銀行の口座から約250,000,000ドルを着服している。
  • ベニート・ムッソリーニ 西暦1,929年2月11日、ローマ教皇庁とラテラノ条約を締結した。ローマ教皇領の権利放棄と引き換えに、バチカン市国の主権国家としての地位、イタリアに対する免税特権、輸入商品の関税免除を保証し、領地放棄の代償として750,000,000リラを現金40%・債券60%の割合で支払う事に合意した。
  • ピウス11世 第259代ローマ教皇。ラテラノ条約の締結に際して財産管理局を新設し、其の管理をベルナルディーノ・ノガーラに任せた。本書が追うバチカンの金融構造は、此の局から始まっている。
  • ベルナルディーノ・ノガーラ ピウス11世に財産管理局の管理を任された人物。ノガーラ家はユダヤ教からカトリックへ改宗しており、兄は神父として教皇に仕えていた。彼が長年に渡って築き上げた金融構造の崩壊こそ、西暦1,969年4月頃にパウロ6世がシンドーナへ打ち明けた最大の懸念であった。
  • ピウス12世 第260代ローマ教皇。西暦1,942年6月27日、宗務委員会を改組し、ラテラノ条約締結後にイタリアから支払われた補償金を資本として「IOR(宗教事業協会)」を設立した。此の設立はロスチャイルド家の肝入りであったとされる。
  • ラッキー・ルチアーノ イタリアのマフィアであるコーサ・ノストラの最高幹部。西暦1,952年、ミケーレ・シンドーナにアメリカ行きを依頼した。此の渡米が、シンドーナとアメリカのマフィア・金融機関との関係の出発点となった。
  • ジョー・アドニス コーサ・ノストラの幹部。西暦1,956年、ミケーレ・シンドーナにヘロイン密輸の収益のマネーロンダリングを依頼した。
  • マッシモ・スパーダ IOR秘書官を務めたスパーダ家の当主。西暦1,959年頃にミケーレ・シンドーナと知己を得、同年、老人ホーム「マンドニーナ」を設立しようとしていたパウロ6世へ用地と2,400,000ドルを提供した。西暦1,960年には、シンドーナがファスコAGを通じてプライベート・ファイナンス銀行の株の過半数を取得する仲介を行っている。
  • ジョヴァンニ・レオーネ 西暦1,968年6月25日に就任した第22代イタリア首相。就任後、ローマ教皇庁への課税に踏み切り、莫大な投資額に対する追徴金を課した。此の課税が、翌年のシンドーナ招聘と資産の国外移送を招く事になる。
  • ポール・マルチンクス 西暦1,969年4月頃、ローマ教皇庁の銀行家となったミケーレ・シンドーナと協力し、バチカン市国がイタリアに保有する株式をスイス銀行の地下金庫へ移送する任務を担った三名の一人。
  • ジュゼッペ・カプリオ 聖座財産管理局秘書。西暦1,969年4月頃、ミケーレ・シンドーナと協力し、バチカン市国の株式をイタリア政府に気付かれぬ様スイス銀行の地下金庫へ移送する任務を遂行した。
  • セルジオ・ゲッリ バチカン行政庁長官(暫定)。西暦1,969年4月頃、ミケーレ・シンドーナ、ポール・マルチンクス、ジュゼッペ・カプリオと共に、バチカン市国の資産をスイス銀行の地下金庫へ移す任務に当たった。

主要な概念・組織

  • ラテラノ条約とバチカン市国 西暦1,929年2月11日にローマ教皇庁とイタリアの間で締結された条約。バチカン一帯がバチカン市国としてイタリア政府から政治的に独立した区域と認められ、主権国家としての地位・イタリアに対する免税特権・輸入商品の関税免除が保証された。本書が扱う一切の資金移動は、此の「主権国家」という地位の上に成り立っている。
  • 財産管理局 ラテラノ条約に伴い、第259代ローマ教皇ピウス11世が新設した部局。管理を任されたベルナルディーノ・ノガーラが長年に渡り、バチカンの金融構造を築き上げた。
  • IOR(宗教事業協会) 西暦1,942年6月27日、第260代ローマ教皇ピウス12世が宗務委員会を改組して設立した金融機関。資本は、ラテラノ条約締結後にイタリアから支払われたローマ教皇領没収に係る補償金であり、設立はロスチャイルド家の肝入りであったとされる。後に麻薬資金等のマネーロンダリング装置として悪用され、洗浄額の10%以上を手数料として取り、得た利益を東欧や中南米の反共組織へ送金していた。
  • CIAによるバチカン・キリスト民主党への資金提供 CIAがイタリア共産党の拡大を阻止する為に行った資金提供。西暦1,946年、ミラノへ移ったミケーレ・シンドーナが其の仲介役を務め、之が切っ掛けでシンドーナとパウロ6世は知己を得た。本書における二人の結節点である。
  • コーサ・ノストラとガンビーノ一家 シンドーナの資金洗浄の出発点。西暦1,952年、コーサ・ノストラ最高幹部ラッキー・ルチアーノの依頼で渡米したシンドーナは、ニューヨークの5大マフィアの一つガンビーノ一家の資金洗浄を行い、一家の為に持株会社を設立した。西暦1,956年には幹部ジョー・アドニスの依頼でヘロイン密輸の収益を洗っている。
  • ファスコAGとプライベート・ファイナンス銀行 西暦1,960年、ミケーレ・シンドーナがマッシモ・スパーダの仲介により、リヒテンシュタインを本拠とする金融会社ファスコAGを通じて、ミラノに拠点を置くプライベート・ファイナンス銀行の株の過半数を取得した。少数株主にはIORとイタリアのウニオネ銀行が名を連ねている。同行はミラノとローマの二店舗のみで運営される小規模な金融機関であった。
  • ローマ教皇庁の銀行家 西暦1,969年4月頃、パウロ6世がミケーレ・シンドーナに与えた地位。IORの資金管理を行う略無制限の権限を伴い、任命書にシンドーナが署名する形で成立した。此の任命によって、マフィアの資金洗浄者が教皇庁の財産の管理者となった。
  • タックスヘイブンへの資産分散 イタリア政府の課税に対してシンドーナがパウロ6世へ示した対抗策。欧米のタックスヘイブンに設立された企業へ資産を分散させるもので、嘗て自らガンビーノ一家に施した手法と同じであり、唯一異なるのは公然と行う点であった。主権国家として投資対象を移す権利を示す事で、イタリアの立法者への警告と、課税を目論む他国への牽制を兼ねる狙いが有った。
  • スイス銀行地下金庫への移送 西暦1,969年4月頃以降、バチカン市国がイタリアに保有する株式を、政府に気付かれぬ様ローマ教皇庁の提携金融機関であるスイス銀行の地下金庫へ移した作業。シンドーナは、ポール・マルチンクス、聖座財産管理局秘書ジュゼッペ・カプリオ、バチカン行政庁長官(暫定)セルジオ・ゲッリと協力して之を遂行し、ジェネラーレ不動産の株式売却益でルクセンブルクの金融機関株を取得する等、名義を変えながらイタリア国税庁を煙に巻いた。
  • ウニオネ銀行とアミンコル銀行 シンドーナの着服の舞台。彼はバチカン市国名義のウニオネ銀行の口座から預金を引き上げ、約250,000,000ドルを着服し、残りをチューリッヒのアミンコル銀行へ移した。此の頃シンドーナは、11ヶ国で少なくとも5銀行・125以上の企業を支配していたとされる。
  • プリバータ・イタリアーナ銀行 ローマ教皇庁の口座が置かれていた銀行。ローマ教皇庁の銀行家となったシンドーナは、IORが株式を保有する金融機関と、此の銀行に有る教皇庁の口座を利用して、マフィアのマネーロンダリングに手を貸した。本書の系譜の到達点である。

ムッソリーニの条約から、スイス銀行の地下金庫へ──
IORとマフィアを繋いだバチカンマネーの全過程を一元化。

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AUTHOR

石田晋一

歴史データベース「トキジク」管理人。
万物の系譜の編纂者であり、電子書籍の著者。
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