電子書籍『ジョージ・ソロスが所有するポーランドの反共組織「連帯」一元化』の表紙

ジョージ・ソロスが所有する
ポーランドの反共組織
「連帯」一元化

著者:石田晋一

掲載範囲
西暦1,979年〜2,002年
ページ数
11ページ
最新更新日
西暦2,026年7月25日

反共の労働運動を育てた金は、やがて国営企業を投資家の手に渡らせた──
ソロスと連帯を巡る24年を年月日単位で一元化。

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本書について

西暦1,979年、ジョージ・ソロスは、ポーランドの反共組織である独立自主管理労働組合「連帯」、チェコスロバキアの反体制運動「憲章77」、そしてソ連の反体制組織やアンドレイ・サハロフの3ヶ所に、3,000,000ドルの資金提供を始めた。東側の労働運動が、西側の一投資家の金で育てられてゆく。本書は、此の資金提供を起点として、連帯の結成から戒厳令、そしてポーランドの国営企業が西側の投資家の手に渡ってゆく民営化までの24年を、年月日単位で一元化した記録である。

西暦1,980年7月1日、経済危機を背景に、ポーランド統一労働者党政府が食肉価格を40〜60%引き上げた。翌日からストライキが始まり、物価高騰に苦しむ国民の抗議は全国へ広がってゆく。第4代ポーランド統一労働者党第一書記エドヴァルト・ギェレクは価格引き上げを部分撤回して一旦は沈静化させたが、其の最中、グダニスク造船所のフォークリフトオペレーターであったアンナ・ワレンティノヴィッチが解雇された。8月14日、彼女の復職と賃上げを求めて約17,000名の労働者が座り込みのストライキに入る。之を率いたのが、造船所の一労働者で元電気技師のレフ・ヴァウェンサであった。8月17日、工場間ストライキ委員会は、独立労働組合を組織する権利・ストライキ権・政治犯の釈放・表現の自由の拡大を含む21の要求を突き付ける。8月31日、副首相ミエチスワフ・ジャギエルスキとヴァウェンサが要求の受け入れで合意し、ヴァウェンサはヨハネ・パウロ2世の写真で飾られた巨大なボールペンで文書に署名した。

西暦1,980年9月17日、ジョージ・ソロスの資金提供により、グダニスクで連帯が結成される。首席顧問にはブロニスワフ・ゲレメクが就いた。CIAの工作資金がNED(全米民主主義基金)を経由して連帯に流れ込み、IORやアンブロシアーノ銀行も不正送金を行なっている。連帯は瞬く間に10,000,000名を超える会員を擁する大衆運動へと発展した。西側諸国の指導者から共感を得た一方、モスクワからは敵意を向けられ、クレムリンではポーランドへの軍事侵攻が検討される。そして西暦1,981年12月14日、ソ連からの圧力を背景に、第6代ポーランド統一労働者党第一書記兼第6代国家評議会議長ヴォイチェフ・ヤルゼルスキが戒厳令を布告した。連帯の承認は取り消され、6,000名の活動家が逮捕され、ヴァウェンサはエドヴァルト・ギェレクの所有する山荘に軟禁される。以降、連帯は地下活動へ移り、ロナルド・レーガン等の支持を得た。西暦1,983年10月5日、ヴァウェンサはノーベル平和賞受賞の連絡を受けるが、12月10日の授賞式は欠席し、妻ミロスワワ・ダヌタと長男ボグダンが代理で受け取っている。

西暦1,988年5月、ジョージ・ソロスは、連帯と共に、民主化運動の指導者タデウシュ・マゾヴィエツキと関係のあるポーランド系ユダヤ人で構成された「ステファン・バートリ財団」を設立した。ソロスは此の財団を通じて、第9代ポーランド首相ミェチスワフ・ラコフスキ政権や連帯と秘密裏に協議し、国営企業の民営化計画を練り上げる。其れは、ポーランド政府が国営企業に100%以上の利子と追加の税負担を伴う返済不可能な巨額の負債を意図的に負わせ、破産した企業を国際オークションに掛けて、西側の投資家へ実際の価値の極一部の価格で売却する——解雇や会社の分割に対する制限は無い——というものであった。西暦1,989年3月、ソロスはジョージ・H・W・ブッシュに、西側諸国による独立機関「信託委員会」の設置を提案する。中央銀行の運営にも影響力を持ち、企業の売却と外国債務の処理を同時に行う計画であった。だが5月、ブッシュがNSCで発表した此の提案は、連帯が主導するものであっても主権の喪失を受け入れる事は想像出来ないとして反対される。ワシントンD.C.には、IMFや世界銀行という小規模国家の経済政策に影響を与える手段があった為、ソロスの意見を受け入れる必要が無かった。

西暦1,989年6月18日、ポーランドの議会選挙で連帯が圧勝する。上院では100議席中99議席を、下院では改選議席161の全てを獲得した。7月、ソロスはポーランド統一労働者党政府と連帯の指導者達との秘密会談をセッティングし、連帯に政権を明け渡して国民の信頼を得るべきだと語る。7月19日にヴォイチェフ・ヤルゼルスキが初代ポーランド人民共和国大統領に就任すると、ソロスは「ブロニスワフ・ゲレメクと親しい関係を築いた。ヤルゼルスキにも会い、私の財団に対する承認を得た」と自慢した。8月31日、ポーランドの経済救済チームが結成され、ソロスから資金提供を受けていたハーバード大学教授ジェフリー・サックスがリーダーに就く。ソロスは、天文学的な金利で自国の工業・農業を担う企業を意図的に破産させ、返済不可能な負債を背負わせて民営化し、其の企業を自らの仲間に買わせるという手法で、国営企業を民営化させていった。西側諸国が新たに建設すれば3,000,000,000〜4,000,000,000ドルを要するワルシャワのビエラニー地区フタの鉄鋼施設の負債をポーランド政府が引き受け、負債の無くなった状態でミラノの会社ルチェヒニに30,000,000ドルで売却した事例が、其れを象徴している。IMF・世界銀行も動員され、利益率の高い高品質な石炭採掘の大部分の閉鎖と市場開放が要求された。最終的にポーランド政府は、石炭輸出を半分に削減し、180,000名の労働者を解雇し、一部の炭鉱を水没させて、より安価なオーストラリアからの石炭輸入へと転じている。

西暦1,989年9月12日、レシェク・バルツェロヴィチが初代ポーランド財務経済大臣に就任した。ソロスはバルツェロヴィチと親密な関係を築き、彼が留任した際には「ワシントンD.C.を始めとする西側諸国の圧力により、レフ・ヴァウェンサがバルツェロヴィチを留任させた」と述べている。バルツェロヴィチは賃金凍結を課し、国家融資の打ち切りによって産業を破綻させる政策を採った。工業生産は2年間で30%以上減少する。ポーランドズウォティはドルとの固定為替レートを維持し、金利は年率80%に設定されていた為、通貨投機家にとって理想的な国となった。銀行で得られる利子への課税は無く、国外に流出した金額の記録も為されず、此の課税が始まったのは西暦2,001年になってからである。西暦1,993年5月1日には連帯自身が賃上げを求めてストライキを起こし、必然的にポーランド政府と対立した。第2代連帯議長マリアン・クシャクレフスキは、IMFの公然たる支持者であった。

西暦2,001年7月28日、ソロスが支援するアレハンドロ・トレドが第92代ペルー大統領に就任し、ジェフリー・サックスはトレドとその妻エリアーヌ・カープの下でペルーへ進出する。其れまでにサックスは、ポーランドを40回以上訪問していた。そして西暦2,002年、ポーランドの失業率は約20%に達する。ソロスは、バルツェロヴィチの政策が大量の失業者・工場の閉鎖・社会不安を引き起こす事を事前に認識しており、連帯をポーランド政府に組み込む事を主張していた。更にソロスは、ステファン・バートリ財団を通じて、ガゼタ・ヴィボルチャの編集長アダム・ミシュニク等の主要メディアのオピニオンリーダーを取り込み、ワルシャワの在ポーランドアメリカ大使館の協力を得て、自らに不利益な報道への検閲を実施した。反共の労働運動として始まった連帯が、国営企業を投資家へ渡す装置となり、其の帰結が失業率20%として現れるまで——本書は、其の全過程を一冊に束ねている。


登場人物

  • ジョージ・ソロス 本書の中心人物。西暦1,979年に連帯等への資金提供を開始したとされる。西暦1,988年にステファン・バートリ財団を設立し、本書では、この財団を通じてポーランドの国営企業の民営化計画に関与し、ジェフリー・サックスやレシェク・バルツェロヴィチと連携したとされる。
  • レフ・ヴァウェンサ グダニスク造船所の元電気技師。西暦1,980年8月のストライキを率い、連帯の設立を主導した。西暦1,981年の戒厳令で軟禁され、西暦1,983年にノーベル平和賞を受賞した。
  • ヴォイチェフ・ヤルゼルスキ 第6代ポーランド統一労働者党第一書記。西暦1,981年12月14日、ソ連からの圧力を背景に戒厳令を布告し、連帯の承認を取り消した。西暦1,989年7月19日、初代ポーランド人民共和国大統領に就任した。
  • ブロニスワフ・ゲレメク 西暦1,980年9月の連帯結成時に首席顧問に就いた人物。本書では、ジョージ・ソロスが、ゲレメクと親しい関係を築いたと述べたとされる。
  • ジェフリー・サックス ハーバード大学教授。西暦1,989年8月、結成されたポーランドの経済救済チームのリーダーに就任した。本書では、ジョージ・ソロスから資金提供を受け、ポーランドの国営企業の民営化を推し進める為に招かれたとされる。
  • レシェク・バルツェロヴィチ 連帯の経済顧問を務めた経済学者。西暦1,989年9月12日、初代ポーランド財務経済大臣に就任した。賃金凍結と国家融資の打ち切りによる経済改革を実施し、工業生産は2年間で30%以上減少したとされる。
  • アンナ・ワレンティノヴィッチ グダニスク造船所のフォークリフトオペレーター。その解雇が、西暦1,980年8月14日のグダニスク造船所のストライキの引き金となった。

主要な概念・組織

  • 連帯 ポーランドの独立自主管理労働組合。西暦1,980年9月17日にグダニスクで結成された反共組織で、1,000万名を超える会員を擁する大衆社会運動へと発展した。西暦1,981年の戒厳令で承認を取り消されたが、西暦1,989年の議会選挙で圧勝した。
  • グダニスク造船所のストライキ 西暦1,980年8月14日、アンナ・ワレンティノヴィッチの解雇を契機に、グダニスク造船所の労働者約1万7,000名が開始した座り込みのストライキ。レフ・ヴァウェンサが率い、独立労働組合の権利等を含む21の要求が出され、連帯の結成へと繋がった。
  • ステファン・バートリ財団 西暦1,988年5月、ジョージ・ソロスが連帯と共に設立した財団。本書では、ソロスがこの財団を通じてポーランドの国営企業の民営化計画に関与し、ジェフリー・サックスの活動をバックアップしたとされる。
  • 戒厳令 西暦1,981年12月14日にヴォイチェフ・ヤルゼルスキが布告したもの。ソ連からの圧力を背景とし、連帯の承認の取り消しと6,000名の活動家の逮捕を伴った。連帯はこれ以降、地下活動に移行した。
  • 国営企業の民営化と経済改革 西暦1,989年以降、レシェク・バルツェロヴィチの下で進められた、賃金凍結と国家融資の打ち切りを伴う経済改革。本書では、IMF・世界銀行も動員され、炭鉱の閉鎖と労働者の解雇が進み、西暦2,002年にポーランドの失業率が約20%に達したとされる。
  • ガゼタ・ヴィボルチャ 「連帯無しに自由はない」というモットーの下、西暦1,989年5月に創刊された連帯の機関紙でポーランドの独立メディア。

資金提供から戒厳令、そして国営企業の民営化へ──
ジョージ・ソロスと連帯を巡る24年の全過程を一元化。

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AUTHOR

石田晋一

歴史データベース「トキジク」管理人。
万物の系譜の編纂者であり、電子書籍の著者。
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