プランデミックを暴露した
鳥インフルエンザサミット
一元化
発生前に、発生後の社会運営が語られていた──
H5N1を巡る六つのサミットの三ヶ月弱を一元化。
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本書について
西暦2,024年7月29日から2日間、リオデジャネイロで「グローバル・パンデミック対策サミット2024」が開かれた。主催は、ブラジル保健省と、其の傘下でワクチン・医薬品・試薬・診断薬の開発と製造を行う国立研究機関FIOCRUZ(オズワルドクルス財団)、そしてCEPIである。パートナーには、FIND、ウェルカム・トラストに拠点を置きウェルカム・トラストとビル&メリンダ・ゲイツ財団から資金提供を受けているIPPS(国際パンデミック対策事務局)、PAHO(汎米保健機構)、ユニットエイド、WHOパンデミック&エピデミック情報ハブ、WHOが名を連ねた。掲げられた名目は、パンデミックへの準備と対応を再び強化し、将来の感染症の発生をより迅速且つ公平に終息させる事。サミットはライブストリーミングされ、終了後にはオンラインで公開された。本書は、此のサミットを起点に、三ヶ月弱の間に世界各地で開かれた六つの鳥インフルエンザサミット及びブリーフィングを、年月日単位で一元化した記録である。
初日15:45、本会議場では「人獣共通インフルエンザに対して、100日間で平等に対応する準備が出来ているのか?そして其の準備に向けて何が出来るか?」と題したパネルセッションが行われた。序論とモデレーターを務めたのは、アメリカ生物医学先端研究開発局の局長を務め、FIND理事会メンバーであり、西暦2,013年3月からロックフェラー財団に加わってパンデミックデータ及び行動プラットフォームの開発を主導しているリック・ブライトである。登壇者には、オックスフォード大学パンデミックサイエンス研究所ワクチン学教授サラ・ギルバート、CEPI対策・対応エグゼクティブディレクターのニコール・ルーリー、IFPMA(国際製薬団体連合会)のポーラ・バルボサらが並んだ。セッション終了後、ブライトはCEPIチーフサイエンティフィックライターのケイト・ケランドの質問に答え、アメリカの乳牛に於けるH5N1のスピルオーバーの脅威は日々高まっており、感染者が増える程変異の可能性が高まって制御不能な致死的ウイルスになる可能性が増大していると述べた上で、「警報は鳴っている」と語った。更に、西暦1,940年代の鶏卵培養法によるインフルエンザワクチンに頼る事は出来ないとして、粘膜・経口・鼻腔・経皮への投与経路の変更、冷蔵保存を不要とする常温安定性、ウイルスが変異しても追いかける必要が無くなる交差防御を挙げ、保健安全保障機関と研究機関が先手を打つべきだと結んだ。
9月30日からの4日間、アーカンソー大学養鶏科学センターが、ドン・タイソン農業科学センターで「第2回国際鳥インフルエンザ及びワンヘルス新興問題サミット」を開催する。51ヶ国から1,270名が参加し、ACPV(アメリカ家禽獣医師会)23単位・AVMA(アメリカ獣医師会)26単位・PAACO 12単位のCEクレジットとして承認されていた。背景には、西暦2,022年1月以降、HPAI(高病原性鳥インフルエンザ)ウイルスが数千羽の野鳥や商業用家禽群、世界中の20種以上の陸生及び海洋哺乳動物に感染し、南極を含む各大陸へ広がった事が挙げられている。議長でアーカンソー大学養鶏科学センター教授のギジェルモ・テレス・イサイアスは、従来感染しなかった種にも感染出来る様適応した特異なウイルスに直面しているとし、もし此のウイルスが人間に適応出来る様になれば其の致死率はCOVID-19が軽い風邪の様に見える程になる、西暦1,918年のスペイン風邪で起こった事が再び起こり得る、と述べた。参加者が纏める提言は、WHO・CDC・FAO・OIE(世界動物衛生機関)等へ提出される予定であるとされた。
此の時点で、ベトナムの動物園では虎47頭とライオン3頭が、ペルーではペリカン数万羽とアシカ700頭以上が鳥インフルエンザで死んでおり、感染する種は拡大を続けていた。RSMコンサルティングの獣医師ケイ・ルッソは、HPAIの乳牛の群れでの急速な広がりは、まだ特定されていない別の伝播形態が存在する事を示唆していると語り、拡大を防ぐ措置として、感染経路解明の為の疫学調査、処理工場でのH5N1定期的バルクタンク検査、廃水監視、ヘイファーや乾乳牛等の非授乳動物へのワクチン接種の検討、H5N1陽性の廃乳を管理する安全なプロトコルの開発、ウイルス配列データとメタデータの透明化と迅速な共有、リスクの高い集団への監視改善の七点を挙げた。
10月2日からの3日間、ワシントンD.C.で「国際鳥インフルエンザサミット」が開かれる。最初の2日間は会議とポスターセッション、最終日はワークショップという構成で、13のテーマ、25の分科会議題、6のワークショップテーマが組まれた。其処に並んだのは、ウイルスや治療の話だけではない。大量死者管理計画と遺体安置所オペレーションの実施、欠勤率50%以上での運営戦略、パンデミックの連続的な波への対処、法執行機関による社会不安と公共の無秩序の抑制、矯正施設での隔離措置の実施、消防署によるワクチンの集団接種活動と効果的な検疫措置、軍事施設に於ける鳥インフルエンザのリアルタイム追跡と民間当局との連携、学校ベースの計画──発生していない事態の後に、社会をどう運営するかが、細目に至るまで議題として立てられていた。
10月8日14時(中央ヨーロッパ時間)、FAO(国連食糧農業機関)がZOOMで「鳥インフルエンザに関するワンヘルスブリーフィング:準備と協調対応」を実施する。FAOは、西暦2,020年以降、動物集団に於いて前例の無いH5型HPAIが発生し、20ヶ国以上で報告されているとした上で、TIPRA(インフルエンザ・パンデミック・リスク評価ツール)等による監視情報の共有や、WHOが年2回開くインフルエンザワクチン組成会議への情報提供を通じ、多くの国で検出及び対応能力が向上したと説明した。登壇したのは、FAOジュネーブ連絡事務所長ドミニク・ブルジョン、FAO動物衛生担当官マドゥール・ディングラ、WHOのEPPディレクターのマリア・ヴァン・ケルクホーフ、WOAHのグナラン・パヴァード、UNEPのルース・クロミーとダグマール・ジコバ、FAOのフリオ・ピント、FAO事務局次長タナワット・ティエンシンである。
10月10日13時(中央ヨーロッパ時間)には、動物用ワクチンソリューション等を手掛けるケミン・インダストリーズの一部門ケミン・バイオロジクスが、鳥インフルエンザサミットを開催した。同社は、EUから資金提供を受けた5年間の研究プロジェクト「DELTA-FLU」の成果として、鳥インフルエンザの新たな発生は野鳥からの直接感染ではなく、寧ろ人間の汚染された靴・衣服・機械・動物の飼料・寝具を通じて持ち込まれる、とした。そして10月16日からの2日間、ボストン及びリモートで開かれたSTATのサミット初日、NIAIDのVRC副所長兼病理学研究室主任を務めたモアハウス医科大学教授バーニー・グラハムが、STATシニアライターのヘレン・ブランズウェルとの対談で、アメリカ農務省・CDC・NIHが情報を共有していない事が乳牛間のH5N1への対応を妨げているとし、もし此のウイルスが人々の間で効率的に広がる様に進化すれば、其れがパンデミックの引き金になる可能性が有ると述べた。リオデジャネイロからボストンまで、六つの会議で語られた言葉の全てを、本書は一冊に束ねている。
登場人物
- リック・ブライト 本書の中心人物。アメリカ保健福祉省の一部局であるアメリカ生物医学先端研究開発局の局長を務め、CEPIの対策・対応の専門家と活動し、FIND理事会メンバーで、西暦2,013年3月からロックフェラー財団に加わりパンデミックデータ及び行動プラットフォームの開発を主導している。西暦2,024年7月29日のパネルセッションで序論とモデレーターを務め、終了後に「警報は鳴っている」としてサーベイランスと新型ワクチンの必要性を語った。
- サラ・ギルバート オックスフォード大学パンデミックサイエンス研究所ワクチン学教授。「グローバル・パンデミック対策サミット2024」初日のパネルセッションに登壇した。
- ニコール・ルーリー CEPI対策・対応エグゼクティブディレクター。「グローバル・パンデミック対策サミット2024」初日のパネルセッションに登壇した。
- ポーラ・バルボサ IFPMA(国際製薬団体連合会)ワクチン政策アソシエイトディレクター。「グローバル・パンデミック対策サミット2024」初日のパネルセッションに登壇した。
- マルセラ・ウハート カレン・C・ドレイヤー野生動物健康センターのラテンアメリカプログラムディレクター。「グローバル・パンデミック対策サミット2024」初日のパネルセッションに登壇した。
- マリルダ・シケイラ FIOCRUZ呼吸器ウイルス・麻疹研究室長。「グローバル・パンデミック対策サミット2024」初日のパネルセッションに登壇した。
- ケイト・ケランド CEPIチーフサイエンティフィックライター。パネルセッション終了後、リック・ブライトにH5N1鳥インフルエンザの現状とリスクに就いて尋ね、乳牛でのスピルオーバーとワクチンの在り方に関する一連の発言を引き出した。
- ギジェルモ・テレス・イサイアス アーカンソー大学養鶏科学センター教授。「第2回国際鳥インフルエンザ及びワンヘルス新興問題サミット」の議長として、ウイルスが人間に適応すればCOVID-19が軽い風邪の様に見える致死率になり得る、西暦1,918年のスペイン風邪が再び起こり得ると述べ、提言をWHO・CDC・FAO・OIE等へ提出する予定であるとした。
- ケイ・ルッソ RSMコンサルティング(アメリカのコロラド州)の獣医師。HPAIの乳牛の群れでの急速な広がりは、まだ特定されていない別の伝播形態の存在を示唆していると語り、疫学調査・バルクタンク検査・廃水監視・非授乳動物へのワクチン接種の検討等、七つの措置を挙げた。
- ドミニク・ブルジョン FAOジュネーブ連絡事務所長。西暦2,024年10月8日のワンヘルスブリーフィングで、冒頭の挨拶を務めた。
- マドゥール・ディングラ FAO動物衛生担当官兼動物衛生予防準備迅速対応クラスターリーダー。ワンヘルスブリーフィングで、FAOの鳥インフルエンザに関する世界的取り組みへの貢献に就いて講演した。
- マリア・ヴァン・ケルクホーフ WHOのEPP(伝染病及びパンデミック準備・予防部門)ディレクター。西暦2,024年10月8日のFAOワンヘルスブリーフィングで発言した。
- グナラン・パヴァード WOAH(国際獣疫事務局)科学部門科学コーディネーター。西暦2,024年10月8日のFAOワンヘルスブリーフィングで発言した。
- ルース・クロミー UNEP(国連環境計画)のAI及び野生動物タスクフォースコーディネーター。西暦2,024年10月8日のFAOワンヘルスブリーフィングで発言した。
- ダグマール・ジコバ UNEP移動性動植物種条約科学顧問。西暦2,024年10月8日のFAOワンヘルスブリーフィングで発言した。
- フリオ・ピント FAO動物衛生担当官(ワンヘルス)。西暦2,024年10月8日のワンヘルスブリーフィングで、質疑応答セッションを担当した。
- タナワット・ティエンシン FAO事務局次長。西暦2,024年10月8日のワンヘルスブリーフィングで、締め括りの挨拶を務めた。
- バーニー・グラハム モアハウス医科大学の医学・微生物学・生化学・免疫学教授。NIAIDのVRC(ワクチン研究センター)副所長兼VRC病理学研究室主任を務めた。西暦2,024年10月16日のSTATサミットで、アメリカ農務省・CDC・NIHが情報を共有していない事が乳牛間のH5N1への対応を妨げているとし、ウイルスが人々の間で効率的に広がる様に進化すればパンデミックの引き金になる可能性が有ると述べた。
- ヘレン・ブランズウェル STATシニアライター。西暦2,024年10月16日のSTATサミット初日、バーニー・グラハムとの対談を行った。
本書が記録するサミットと会議
- グローバル・パンデミック対策サミット2024 西暦2,024年7月29日から2日間、リオデジャネイロで開催。本書の起点。ブラジル保健省・FIOCRUZ・CEPIが主催し、FIND・IPPS・PAHO・ユニットエイド・WHOパンデミック&エピデミック情報ハブ・WHOがパートナーとして名を連ねた。ライブストリーミングが行われ、終了後にオンラインで公開された。
- 100日間で平等に対応する準備のパネルセッション サミット初日15:45から本会議場で行われた「人獣共通インフルエンザに対して、100日間で平等に対応する準備が出来ているのか?そして其の準備に向けて何が出来るか?」と題したセッション。ワクチン学・疫学・サーベイランス・発生対策の専門家6名が招かれ、リック・ブライトが序論とモデレーターを務めた。
- 乳牛でのH5N1スピルオーバーと新型ワクチン論 パネルセッション終了後のリック・ブライトの発言。乳牛・猫・鼠での感染と鳥へのスピルオーバー、低・中所得国へのワクチン供給の遅れ、診断機器・治療薬・個人防護具の不足を挙げた上で、鶏卵培養法に代わる粘膜・経口・鼻腔・経皮投与、常温安定、交差防御を有するワクチンの開発を求めた。
- 第2回国際鳥インフルエンザ及びワンヘルス新興問題サミット 西暦2,024年9月30日から4日間、アーカンソー大学養鶏科学センターがドン・タイソン農業科学センターで開催。51ヶ国から1,270名が参加し、ACPV・AVMA・PAACOのCEクレジットとして承認されていた。商業用家禽と野生動物のHPAIに加え、豚・牛・蜜蜂・人間に影響する経済的疾病へと範囲が拡大された。
- ベトナムとペルーでの大量死 サミット時点で、ベトナムの動物園では虎47頭とライオン3頭が、ペルーではペリカン数万羽とアシカ700頭以上が鳥インフルエンザにより死亡していた。西暦2,022年1月以降、HPAIは20種以上の陸生及び海洋哺乳動物に感染し、南極を含む各大陸へ広がっていた。
- ケイ・ルッソの七つの措置 HPAI拡大を防ぐ為の提言。乳牛群の感染経路を解明する疫学調査、処理工場でのH5N1定期的バルクタンク検査、廃水監視、非授乳動物へのワクチン接種の検討、H5N1陽性の廃乳を管理するプロトコルの開発、ウイルス配列データとメタデータの透明化と迅速な共有、リスクの高い集団への監視改善。
- 国際鳥インフルエンザサミット 西暦2,024年10月2日から3日間、ワシントンD.C.で開催。最初の2日間は会議とポスターセッション、最終日はワークショップという構成で、13のテーマ、25の分科会議題、6のワークショップテーマが組まれた。
- 大量死者管理計画と業務継続計画 ワシントンD.C.のサミットの分科会議題。遺体安置所オペレーションの実施、欠勤率50%以上での運営戦略、パンデミックの連続的な波への対処、社会不安と公共の無秩序の抑制、矯正施設での隔離措置、ワクチンの集団接種活動と検疫措置等、発生後の社会運営が細目まで議題化されていた。
- パンデミックインフルエンザに対する軍事準備と対応計画 同じくワシントンD.C.のサミットの分科会議題。軍事施設に於ける鳥インフルエンザのリアルタイム追跡、影響を軽減する為の戦略的防衛計画、民間当局との連携、地域間の協調努力、機関間のコミュニケーションとリソース配分が並べられた。
- FAOワンヘルスブリーフィング 西暦2,024年10月8日14時(中央ヨーロッパ時間)、FAOがZOOMで実施した「鳥インフルエンザに関するワンヘルスブリーフィング:準備と協調対応」。西暦2,020年以降の前例の無いH5型HPAIの発生を踏まえ、TIPRA等による監視情報の共有と、WHOが年2回開くワクチン組成会議への情報提供が語られた。
- ケミン・バイオロジクスのサミットとDELTA-FLU 西暦2,024年10月10日13時(中央ヨーロッパ時間)開催。EUから資金提供を受けた5年間の研究プロジェクト「DELTA-FLU」を根拠に、鳥インフルエンザの新たな発生は野鳥からの直接感染ではなく、人間の汚染された靴・衣服・機械・動物の飼料・寝具を通じて持ち込まれるとされ、HPAIに対する統合リスク管理が議論された。
- STATサミットとバーニー・グラハムの発言 西暦2,024年10月16日から2日間、ボストン及びリモートで開催。本書の終点。初日、バーニー・グラハムがヘレン・ブランズウェルとの対談で、アメリカ農務省・CDC・NIHの情報共有の欠如が乳牛間のH5N1への対応を妨げているとし、ウイルスが人々の間で効率的に広がる様に進化すればパンデミックの引き金になり得ると述べた。
リオデジャネイロからボストンまで──
H5N1鳥インフルエンザを巡る六つのサミットで語られた事の全記録を一元化。
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