イラク復興支援資金と血税を貪るチェイニーとハリバートン社一元化
西暦1,992年、国防長官は兵站を民営化した──
三年後、其の発注者自身が受注企業のCEOに座った。
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本書について
西暦1,992年8月、ハリバートン社が、第17代国防長官ディック・チェイニーから兵站業務の5年間の民営化を受注し、契約を結ぶ。食糧も、水も、洗濯も、輸送も、軍が自ら担っていた後方支援が、民間企業の売上へと姿を変えた瞬間である。同社の子会社で軍事関連サービスを提供するKBR(ケロッグ・ブラウン&ルート)社の西暦1,994年の売上は140,000,000ドルであった。西暦1,995年、アメリカ政府はKBR社に対し、リビアに対する禁輸措置を破ったとして3,800,000ドルの罰金を科している。そして同年10月1日、ディック・チェイニーがハリバートン社のCEOに就任した。発注する側から、受注する側へ——本書は、此の反転を起点として、チェイニーとハリバートン社が公金を吸い上げてゆく十五年の歩みを、年月日単位で一元化した記録である。
チェイニーは、第17代国防長官であった地位を利用し、アメリカ国防総省に圧力を掛け、アメリカ政府から契約を取れる様謀った。当時発生していたユーゴスラビア紛争に乗じ、ボスニア・ヘルツェゴビナ・クロアチア・ハンガリーに駐留するアメリカ兵へ、食糧・水・重機材・郵便・洗濯・輸送を提供し、アメリカ政府から少なくとも総額3,000,000,000ドル以上の支払いを受けている。西暦1,995年から西暦2,002年に掛けては、KBR社がLOGCAP(兵站業務民間補強プログラム)の一環として、少なくとも2,500,000,000ドルを受領した。KBR社の売上は、西暦1,996年に430,000,000ドル(西暦1,994年比3.07倍)、西暦1,999年には1,000,000,000ドル(西暦1,996年比2.33倍)へと膨れ上がる。同じ西暦1,999年、ハリバートン社はアメリカ国防総省からコソボ紛争関連で3,000,000,000ドルを受注し、併せて同年から西暦2,002年に掛けて共和党へ700,000ドルの献金を行った。民間企業の政治献金は合法である。一方で同社の子会社の1つは、アメリカ政府がイランでのビジネスを禁止しているにも拘らず、イランに事務所を開設していた。
西暦2,000年7月20日、ハリバートン社とディック・チェイニーが、総額20,000,000ドルで会社を去る事に関し合意する。だが「去る」とは名ばかりであった。以降チェイニーは同社の株式を所持し続け、退職金を分割払いで約200,000ドル/年を受領し続ける。同年11月7日、第54回アメリカ大統領選が行われ、共和党のジョージ・W・ブッシュが当選した。ハリバートン社は此の選挙でブッシュ陣営に17,000ドルの政治献金を行なっていた。西暦2,001年、同社の株主達は、ミャンマーでパイプライン・プロジェクトを開始した事に関し、ミャンマーの人権侵害を理由として経営陣を非難する。同年、チェイニーがハリバートンの子会社44社をタックス・ヘイヴンに移した事も非難された。そして同年12月、アメリカ国防総省とハリバートン社が、コストプラス方式且つ金額の上限無しで、今後10年間世界中のアメリカ兵に対し食糧・水・重機材・郵便・洗濯・輸送を行うという契約を結ぶ。実費に利益を上乗せし、しかも天井が無い——請求すればするだけ利益が増える構造が、此処に完成した。
西暦2,002年、KBR社は、西暦1,994年4月から西暦1,998年9月迄の224件の受注に関し、偽りの請求書・明細書を作成したとして、アメリカ政府に2,000,000ドルを支払う事で合意する。同年1月11日には、キューバのグアンタナモのアメリカ軍海軍基地にグアンタナモ湾収容キャンプが設立され、最初の被収容者20名が搬送された。此の収容キャンプは、KBR社が33,000,000ドルでアメリカ政府から受注して建設した物である。同年10月、アメリカ副大統領オフィスが、ハリバートン社を始めとする石油産業の代表達と、サダム・フセイン政権崩壊後のイラクに於ける石油生産に関する会議を開く。イラク戦争は、まだ始まっていない。此の時ハリバートン社は、アスベスト健康被害訴訟により、西暦2,001年5月18日に23.91ドルであった株価が7ドル台に低迷し、破産申請が噂されていた。翌11月、アメリカ国防総省はアメリカ陸軍工兵司令部に対し、イラクの石油関係インフラの状況評価・環境ダメージの浄化・インフラの施設設計と修復と再建・石油生産品の流通・操業再開の為のイラク人支援・油田火災の消火をKBR社と契約する様勧告し、併せてLOGCAPによる不測事態対応計画を作成する様指示した。
西暦2,003年1月、クウェートに駐留するアメリカ兵に対する給食業務を請け負っていたKBR社が、同年7月迄の給食代金16,000,000ドルを水増しする。7月分では、14,000食/日しか提供していないにも拘らず、42,000食/日として請求していた。同年2月、前年11月の勧告通り、イラクの石油産業に関する契約が締結される。3月にはペンタゴンと戦後イラクの油田消火及び石油製品流通を担う油田運営に関する随意契約を結び、同月8日にはアメリカ陸軍工兵隊からイラクの石油関連事業を受注した。5月、ハリバートン社はSECへの提出書類で、KBR社による天然ガス開発事業に於ける税制優遇を受ける為に、ナイジェリア当局へ2,400,000ドルの賄賂を支払った事を明らかにする。同月12日には、ガソリンと料理用燃料の配給契約を24,000,000ドルで締結した。6月、アメリカ陸軍は石油インフラ契約を最大合計1,000,000,000ドルの2つの一般入札契約に置き換えると発表するが、後に上限を2,000,000,000ドル、募集期間を同年12月へ修正する。契約を主導したのは、アメリカ国防総省高官チャールズ・M・スミスであった。
西暦2,003年9月、KBR社が118,000,000ドルで受注していた、クルド人弾圧・イラン偵察・イスラエル軍によるトルコ軍の訓練等に用いられるインジルリク空軍基地を始めとするアメリカ軍施設の運営補助の契約が切れる。同社は他にも、アフガニスタン・ウズベキスタンのアメリカ軍基地の支援契約で65,000,000ドルを受領していた。同年12月、アメリカ国防総省の監査により、KBR社がクウェートからイラクへの石油供給に関し、石油の購入と運搬に於いて61,000,000ドルの水増し請求を行なっていた事が発覚する。同社は此れを受け「140,000,000ドルの請求を保留する」と発表した。だが同じ12月、アメリカ陸軍工兵司令部はKBR社に対し、イラクに関連する222,000,000ドルの追加発注を行っている。西暦2,004年1月には、KBR社の社員2名が、クウェートに駐留するアメリカ軍の調達業務に於いて、地元企業に下請けをさせた見返りに6,300,000ドルのリベートを受け取っていた事が発覚した。同月、KBR社はアメリカ国防総省からイラクの石油再建関連事業で最大1,200,000,000ドルの工事を受注している。
西暦2,004年2月24日、UFPJ(平和と正義の為の連合)が、ハリバートン社やベクテル社がイラク戦争によって巨利を得ている件に関し、抗議活動を行う。同年3月、KBR社以外の7社がアメリカ国防総省とイラクへの燃料輸送の契約を結ぶが、其の総額は300,000,000ドル——2ヶ月前にKBR社が単独で得た最大1,200,000,000ドルと比べれば、遥かに少額であった。同年5月29日、サウジアラビアのアル・コバールにて、ハリバートン社の入居するビルが、アルカーイダ系イスラム武装集団である「アルクッズ旅団」により爆破される。ハリバートングループがムスリムの富を奪っている、というのが犯行の理由であった。西暦2,006年1月24日、KBR社が、アメリカ国土安全保障省から一時拘留・処理施設である強制収容所を建設する385,000,000ドルの緊急契約を受注したと発表する。そして西暦2,007年5月16日、ハリバートン社は株主総会を開き、ドバイに第2本社を設けた。アメリカ政府から20,000,000,000ドルの請負費用を受け取った上での移転である。ドバイでは税を逃れる事が出来、アメリカの法律も及ばない。国防長官が兵站を民営化し、其の発注者がCEOとなって受注し、副大統領となって戦争の側に立ち、其の企業が復興を請け負い、公金を吸い上げた末に法の届かぬ地へ去ってゆく——本書は、其の全軌跡を一冊に束ねている。
登場人物
- ディック・チェイニー 本書の中心人物。第17代アメリカ国防長官として、西暦1,992年8月に兵站業務の5年間の民営化をハリバートン社へ発注した。西暦1,995年10月1日には其のハリバートン社のCEOに就任し、国防長官であった地位を利用してアメリカ国防総省に圧力を掛け、政府から契約を取れる様謀る。西暦2,000年7月20日、総額20,000,000ドルで会社を去る事に合意したが、以降も同社の株式を所持し、退職金を分割払いで約200,000ドル/年を受領し続けた。西暦2,001年には、ハリバートンの子会社44社をタックス・ヘイヴンに移した事を非難されている。
- ジョージ・W・ブッシュ 共和党の大統領。西暦2,000年11月7日の第54回アメリカ大統領選で当選した。ハリバートン社は此の選挙でブッシュ陣営に17,000ドルの政治献金を行なっており、ディック・チェイニーは其の政権の副大統領となった。
- チャールズ・M・スミス アメリカ国防総省高官。西暦2,003年6月、アメリカ陸軍がKBR社との石油インフラ契約を最大合計1,000,000,000ドルの2つの一般入札契約に置き換えると発表した際、其の契約を主導した。契約上限は後に2,000,000,000ドル、募集期間は同年12月へと修正されている。
- サダム・フセイン イラクの指導者。西暦2,002年10月、イラク戦争がまだ始まっていない段階で、アメリカ副大統領オフィスは、ハリバートン社を始めとする石油産業の代表達と、フセイン政権崩壊後のイラクに於ける石油生産に関する会議を開いた。
- ハリバートン社 アメリカの大手エネルギー・サービス企業で、本書の中心となる企業。西暦1,992年8月に兵站業務の民営化を受注して以降、ユーゴスラビア紛争・コソボ紛争・イラク戦争を通じてアメリカ政府から巨額の契約を得た。西暦2,002年にはアスベスト健康被害訴訟で株価が7ドル台へ低迷し破産申請が噂されたが、イラク関連の受注で息を吹き返し、西暦2,007年5月16日にドバイへ第2本社を設けた。
- KBR(ケロッグ・ブラウン&ルート)社 ハリバートン社の子会社で、軍事関連サービスを提供した。売上は西暦1,994年の140,000,000ドルから、西暦1,996年に430,000,000ドル、西暦1,999年には1,000,000,000ドルへと伸びた。LOGCAP・グアンタナモ湾収容キャンプ建設・イラクの石油インフラ事業等を受注する一方、リビア禁輸違反の罰金、偽りの請求書、給食代金と石油供給の水増し請求、社員のリベート受領が次々と発覚している。
- ベクテル社 アメリカの建設・エンジニアリング企業。西暦2,004年2月24日、UFPJ(平和と正義の為の連合)は、ハリバートン社と共に同社がイラク戦争によって巨利を得ているとして抗議活動を行った。
- アメリカ国防総省(ペンタゴン) ハリバートン社・KBR社との兵站契約及びイラクの石油インフラ契約の発注元。西暦2,001年12月にはコストプラス方式且つ金額の上限無しの10年契約を結び、西暦2,002年11月にはアメリカ陸軍工兵司令部へKBR社との契約を勧告した。一方で其の監査部門は、西暦2,003年12月にKBR社による61,000,000ドルの水増し請求を摘発している。
- アメリカ陸軍工兵司令部 イラクの石油関連事業の契約主体。西暦2,003年2月にKBR社とイラクの石油産業に関する契約を締結し、同年5月12日にはガソリンと料理用燃料の配給契約を24,000,000ドルで結んだ。水増し請求が発覚した同年12月にも、イラクに関連する222,000,000ドルの追加発注を行っている。
- アメリカ国土安全保障省 西暦2,006年1月24日、KBR社に対し、一時拘留・処理施設である強制収容所を建設する385,000,000ドルの緊急契約を発注した省庁。
- アルクッズ旅団 アルカーイダ系イスラム武装集団。西暦2,004年5月29日、サウジアラビアのアル・コバールにてハリバートン社の入居するビルを爆破した。ハリバートングループがムスリムの富を奪っている、というのが犯行の理由であった。
- UFPJ(平和と正義の為の連合) アメリカの反戦団体。西暦2,004年2月24日、ハリバートン社やベクテル社がイラク戦争によって巨利を得ている件に関し、抗議活動を行った。
主要な概念・組織
- 兵站業務の民営化 食糧・水・重機材・郵便・洗濯・輸送といった、従来は軍が自ら担っていた後方支援業務を民間企業に委託する仕組み。西暦1,992年8月、第17代国防長官ディック・チェイニーがハリバートン社へ5年間の民営化を発注した事が、本書の起点となる。
- LOGCAP(兵站業務民間補強プログラム) 兵力構造を増強する為の緊急支援を民間企業から調達するアメリカ軍のプログラム。KBR社は西暦1,995年から西暦2,002年に掛けて、此の枠組みを通じてアメリカ政府から少なくとも2,500,000,000ドルを受領した。西暦2,002年11月には、アメリカ国防総省がLOGCAPによるKBR社との契約を通じて不測事態対応計画を作成する様指示している。
- コストプラス方式・上限無し契約 実費に一定の利益を上乗せして支払う契約方式。西暦2,001年12月、アメリカ国防総省とハリバートン社は、コストプラス方式且つ金額の上限を定めない形で、今後10年間世界中のアメリカ兵に兵站を提供する契約を結んだ。請求額が増える程に受注側の利益も増える構造となる。
- 随意契約 競争入札を経ずに特定の相手と結ぶ契約。西暦2,003年3月、ハリバートン社はペンタゴンと、戦後イラクの油田消火及び石油製品流通を担う油田運営に関する随意契約を結んだ。
- 水増し請求 提供した物資やサービスの量・価格を実際より多く請求する行為。西暦2,003年1月から7月迄、KBR社はクウェート駐留アメリカ兵への給食代金16,000,000ドルを水増しし、7月分では14,000食/日しか提供していないにも拘らず42,000食/日として請求していた。同年12月には、クウェートからイラクへの石油の購入と運搬に於ける61,000,000ドルの水増し請求が、アメリカ国防総省の監査で発覚している。
- 偽りの請求書 西暦2,002年、KBR社が、西暦1,994年4月から西暦1,998年9月迄の224件の受注に関し、偽りの請求書・明細書を作成したとして、アメリカ政府に2,000,000ドルを支払う事で合意した一件。
- リベート 西暦2,004年1月、KBR社の社員2名が、クウェートに駐留するアメリカ軍の調達業務に於いて、地元企業に下請けをさせた見返りに6,300,000ドルを受け取っていた事が発覚した一件。
- ナイジェリア当局への賄賂 西暦2,003年5月、ハリバートン社がSECへの提出書類で明らかにした、KBR社による天然ガス開発事業に於ける税制優遇を受ける為の2,400,000ドルの支払い。
- 政治献金 ハリバートン社は西暦1,999年から西暦2,002年に掛けて共和党に対し700,000ドルの献金を行い、西暦2,000年11月7日の第54回アメリカ大統領選ではブッシュ陣営に17,000ドルを献金した。民間企業の政治献金は合法である。
- タックス・ヘイヴン 税負担が著しく軽い国や地域。西暦2,001年、ディック・チェイニーはハリバートンの子会社44社を其処へ移した事を非難された。西暦2,007年5月16日にドバイへ第2本社を設けた際も、税を逃れる事が出来、アメリカの法律も及ばない点が指摘されている。
- 利益相反 公職者の立場と特定企業との関係から生じる利害の衝突。ディック・チェイニーは、兵站を発注する国防長官、受注するハリバートン社のCEO、そして副大統領という立場を辿りながら、退職後も同社の株式の保有と退職金の受領を続けた。
- グアンタナモ湾収容キャンプ 西暦2,002年1月11日、キューバのグアンタナモのアメリカ軍海軍基地に設立された収容施設。最初の被収容者20名が搬送された。KBR社が33,000,000ドルでアメリカ政府から受注して建設した。
- インジルリク空軍基地 トルコのアダナ県に在る、トルコの中心的な空軍基地の1つ。クルド人弾圧・イラン偵察・イスラエル軍によるトルコ軍の訓練等に用いられた。KBR社はアメリカ国防総省から118,000,000ドルで同基地を始めとするアメリカ軍施設の運営補助を受注していたが、西暦2,003年9月に契約が切れている。
- アスベスト健康被害訴訟 ハリバートン社が抱えていた訴訟。西暦2,001年5月18日に23.91ドルであった同社の株価は7ドル台まで低迷し、西暦2,002年10月の時点で破産申請が噂されていた。イラク関連の受注は、此の窮状の直後に始まる。
兵站の民営化からドバイ移転まで──
チェイニーとハリバートン社が公金を吸い上げた十五年を一元化。
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