ベクテル社の悪行により
汚染水・腐敗水を
飲まされるに至った
コチャバンバ市民
一元化
西暦1,993年、水は国際融資の条件になった──
コチャバンバ市民が汚染水を飲むに至った38年を一元化。
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本書について
西暦1,967年7月12日、ボリビアのコチャバンバに「SEMAPA(コチャバンバ市上下水道公社)」が設立された。①飲料水②下水③雨水排水——市民の生活を支える三つの自治体サービスを担う公社である。其れから四半世紀を経た西暦1,993年、ボリビアの累積債務問題を解決する為として、IMF・世界銀行・ADB(アジア開発銀行)・IDB(米州開発銀行)が、国際融資の条件に公営企業の民営化を掲げた。民営化を促す理由として挙げられたのは、適切な料金で水道配管の敷設や水の供給を行う事が可能になる、水利権の売買を自由化する事が水の効率的な利用を促し飲料水の不足を解消する、公営事業の民営化により公共部門の財政収支を改善させる事が出来る——という3点であった。本書は、此の「融資の条件」が一つの都市の飲み水に何を齎したかを、年月日単位で一元化した記録である。
世界銀行がSEMAPAへの融資に付けた条件は、更に踏み込んだものであった。①民営化、②水道事業に関するコストを利用者が全額負担する「フルコスト・プライシング」の採用。全額負担の対象には、水の採取・集積・処理・配分に加え、廃水の回収・処理・処分までが含まれる。更に世界銀行は、民営化すれば6,000,000ドルの多国間債務を免除する、とした。此の時のコチャバンバの水道普及率は56%で、ボリビア国内の4割弱に相当する貧困層は、毎日の飲み水も満足に手に入れる事が出来ない状況に在った。
西暦1,997年、ボリビア政府は世界銀行の要求に従い、エル・アルト(ボリビアのラパス県)の上下水道事業公社を売却し、フランスのスエズ社に30年間委託する契約を締結する。同年、コチャバンバ市の水道事業も、市からSEMAPAへ移管された。西暦1,999年4月5日、靴工場労働者でコチャバンバ県工場労働組合代表のオスカル・オリビエラが集団を率い、コチャバンバでデモを行う。此のデモには、初代社会主義運動党党首エボ・モラレスも参加していた。そして同年9月、ボリビア政府は世界銀行の監視下で、SEMAPAをベクテル社の子会社アグアス・デル・トゥナリ社へ売却する。政府は事前に「飲料水及び衛生法」という法律を制定していた。
売却の直後、アグアス・デル・トゥナリ社は動いた。サービス向上の為のダム建設を理由に、水道料金を市民の所得に応じ、貧困層は10%、富裕層は200%値上げしたのである。同社は料金を支払わない者に対しては水の供給を停止し、管理下に在った安い料金の井戸水の価格も引き上げ、雨水を溜めるタンクからも料金を徴収した。更に同社が新たに4本の井戸の掘削を計画すると、新しい井戸が地下水を減少させ、灌漑施設への水の供給が滞る事を懸念した農民が反発する。結果、1日2ドル以下で生活する貧困層を中心に、水道料金の支払いが出来ず、食事も満足に摂れない家庭が続出した。そういった家庭に残された道は、浄水されていない水・汚染水・腐敗水を飲む事しか無く、死者が大量に発生した。
西暦1,999年10月12日、コチャバンバ県南部の市民の呼び掛けにより、SEMAPAの民営化反対集会が開催される。①労働組合②学生③市民④農業団体により「水と生活を守る市民連合」が結成され、代表にはオスカル・オリビエラが選ばれた。同年12月、水道料金値上げ阻止を訴える抗議活動が開始される。西暦2,000年4月5日にはアグアス・デル・トゥナリ社の撤退を求めるゼネストが発生し、官庁周辺に集まった労働者・農民・学生等の内、暴徒化した一部が同社の事務所へ向かい、看板を引き裂いて代わりに「人民の水」という看板を掲げた。同月7日、市民連合の支持者達は同社が撤退する迄道路を封鎖し、中央広場を占拠する事を決意する。翌8日、コチャバンバ市庁舎が市民により襲撃されると、ボリビア政府はIMF・世界銀行・IDBの圧力により、此の抗議活動を「麻薬ギャングの扇動」であるとして戒厳令を発令した。出動したボリビア軍はテレビ・ラジオ放送を占拠し、抗議活動が全国に広がらない様、マスメディアからの情報を遮断した。
西暦2,000年4月9日、これまで穏健派市民しか取り合わなかったボリビア政府が態度を変え、オスカル・オリビエラとの会談に応じる。オリビエラが要求したのは、アグアス・デル・トゥナリ社との契約の白紙撤回であった。翌10日、政府と市民連合との間で協定書が締結され、①コチャバンバ市②水と生活を守る市民連合③SEMAPAから各々2名ずつを出し合った6名で暫定理事会を設置する事が取り決められる。同月12日、アグアス・デル・トゥナリ社はボリビアからの事業撤退を発表し、水道事業サービスは再びSEMAPAが担う事となった。然しコチャバンバ市民には、水道管更新費・水道管開発費・水道配管設備の工事代金という借金が残された。同月20日、第75代ボリビア大統領ウゴ・バンセル・スアレスが戒厳令を解除し、国民に謝罪する。一連の抗議活動では、9名の死者と100名の重傷者が発生し、数十名が逮捕されていた。
撤退は終わりではなかった。西暦2,001年11月、ベクテル社は世界銀行グループのICSID(投資紛争解決国際センター)に提訴し、ボリビア政府を相手取って契約破棄料25,000,000ドルの賠償金を要求する。翌西暦2,002年8月29日、コチャバンバの抗議活動グループや各国の市民運動グループが、ICSIDの紛争審理と関係文書を公開する事を要求する陳情書を提出した。世界銀行は債務軽減と水道事業拡大の為の融資条件としてコチャバンバの水道事業民営化をボリビア政府に強制した当事者であり、世界銀行・ICSIDは此の紛争に関与すべきではない——其の主張に、41ヶ国300以上の市民運動団体・労働組合団体が支持を表明した。西暦2,003年3月16日には、ユネスコ・世界銀行等が中心となって設立された国際シンクタンク「世界水会議」主催の「第3回世界水フォーラム」が京都で開かれ、エボ・モラレスがパネル討論会場に乱入して南米に於けるグローバル水企業の横暴を暴露する。そして西暦2,005年12月18日、モラレスがボリビア大統領選で当選し、ボリビア史上初の先住民出身の大統領となった。此れを機に、アグアス・デル・トゥナリ社は契約破棄料の賠償請求を放棄する。飲み水が国際融資の条件へと変わり、一つの都市の市民が汚染水を飲まされ、其の果てに水が市民の手へ戻る——本書は、此の38年の全軌跡を一冊に束ねている。
登場人物
- オスカル・オリビエラ 靴工場労働者で、コチャバンバ県工場労働組合代表。西暦1,999年4月5日、集団を率いてコチャバンバでデモを行った。同年10月12日に結成された「水と生活を守る市民連合」の代表に選ばれ、西暦2,000年4月9日にはボリビア政府との会談に臨み、アグアス・デル・トゥナリ社との契約の白紙撤回を要求した。
- エボ・モラレス 初代社会主義運動党党首。西暦1,999年4月5日のコチャバンバのデモに参加し、西暦2,003年3月、京都で開かれた第3回世界水フォーラムではパネル討論会場に乱入して、南米に於けるグローバル水企業の横暴を暴露した。西暦2,005年12月18日のボリビア大統領選で当選し、ボリビア史上初の先住民出身の大統領となる。此れを機にアグアス・デル・トゥナリ社は賠償請求を放棄した。
- ウゴ・バンセル・スアレス 第75代ボリビア大統領。西暦2,000年4月8日、IMF・世界銀行・IDBの圧力により、アグアス・デル・トゥナリ社に対する抗議活動を「麻薬ギャングの扇動」であるとして戒厳令を発令した。同月20日に戒厳令を解除し、国民に謝罪している。一連の抗議活動では9名の死者と100名の重傷者が発生し、数十名が逮捕された。
組織と企業の系譜
- SEMAPA(コチャバンバ市上下水道公社) 西暦1,967年7月12日、コチャバンバに設立された公社。①飲料水②下水③雨水排水の3つの自治体サービスを担った。西暦1,997年にコチャバンバ市の水道事業が市から移管され、西暦1,999年9月に世界銀行の監視下でアグアス・デル・トゥナリ社へ売却されたが、西暦2,000年4月12日の同社撤退により、再び水道事業サービスを担う事となった。
- 世界銀行 西暦1,993年、SEMAPAへの融資に際し、民営化と、水の採取・集積・処理・配分及び廃水の回収・処理・処分のコストを利用者が全額負担するフルコスト・プライシングの採用を条件として挙げた機関。民営化すれば6,000,000ドルの多国間債務を免除するとし、西暦1,997年のエル・アルト上下水道事業売却、西暦1,999年9月のSEMAPA売却を監視下で進めさせた。
- IMF 西暦1,993年、ボリビアの累積債務問題を解決する為として、国際融資の条件に公営企業の民営化を求めた機関の一つ。西暦2,000年4月8日には、世界銀行・IDBと共にボリビア政府へ圧力を掛け、アグアス・デル・トゥナリ社に対する抗議活動を「麻薬ギャングの扇動」とする戒厳令の発令に繋がった。
- ADB(アジア開発銀行) 西暦1,993年、IMF・世界銀行・IDBと共に、ボリビアの累積債務問題の解決を名目として、国際融資の条件に公営企業の民営化を求めた4機関の一つ。
- IDB(米州開発銀行) 西暦1,993年、国際融資の条件として公営企業の民営化を求めた4機関の一つ。西暦2,000年4月8日には、IMF・世界銀行と共にボリビア政府へ圧力を掛け、戒厳令の発令に繋がった。
- ベクテル社 子会社アグアス・デル・トゥナリ社を通じ、西暦1,999年9月にSEMAPAを買収した企業。西暦2,001年11月、世界銀行グループのICSID(投資紛争解決国際センター)に提訴し、ボリビア政府を相手取って契約破棄料25,000,000ドルの賠償金を要求した。
- アグアス・デル・トゥナリ社 ベクテル社の子会社。西暦1,999年9月にSEMAPAを買収し、直後にダム建設を理由として水道料金を貧困層10%・富裕層200%値上げした。料金未払い者への給水停止、安い料金であった井戸水の値上げ、雨水を溜めるタンクからの料金徴収を行い、貧困層に汚染水・腐敗水を飲ませる事となる。西暦2,000年4月12日、ボリビアからの事業撤退を発表した。
- スエズ社 フランスの企業。西暦1,997年、世界銀行の要求に従ったボリビア政府がエル・アルト(ボリビアのラパス県)の上下水道事業公社を売却した相手であり、30年間の委託契約を締結した。コチャバンバに先行して行われた、ボリビアの水道民営化の事例である。
- 水と生活を守る市民連合 西暦1,999年10月12日、コチャバンバ県南部の市民の呼び掛けによる民営化反対集会にて、①労働組合②学生③市民④農業団体により結成された組織。オスカル・オリビエラを代表とし、アグアス・デル・トゥナリ社の撤退を求めて道路封鎖と中央広場の占拠を決意した。西暦2,000年4月10日にはボリビア政府と協定書を締結し、暫定理事会へ2名を送り出した。
- ICSID(投資紛争解決国際センター) 世界銀行グループの機関。西暦2,001年11月、ベクテル社がボリビア政府を相手取り、契約破棄料25,000,000ドルの賠償金を要求して提訴した先である。西暦2,002年8月29日には、紛争審理と関係文書の公開を求める陳情書が提出され、41ヶ国300以上の市民運動団体・労働組合団体が支持を表明した。
- 世界水会議 ユネスコ・世界銀行等が中心となって、水分野での研究等を行う為に設立された国際シンクタンク。西暦2,003年3月16日から同月23日迄の日程で、京都にて「第3回世界水フォーラム」を主催した。会場には世界中の政府・国際機関・市民・先住民団体・NGOが詰め掛け、グローバル水企業と国際金融機関への抗議活動が京都・大阪のフォーラム会場の内外で発生した。
民営化からゼネスト、そしてICSID提訴まで──
ベクテル社とコチャバンバ市民の攻防38年の全軌跡を一元化。
163円(税込)
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