ジョージ・ソロス傘下のEUの
庇護・移民政策と大統領選の
エマニュエル・マクロン陣営の攻撃に
立ち向かうマリーヌ・ル・ペン一元化
ソロスの提言から、EUの移民・難民協定へ──
其れに立ち向かうマリーヌ・ル・ペンの闘いを一元化。
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本書について
西暦2,015年7月27日、ジョージ・ソロスは自身の公式サイトに「難民を救えないヨーロッパは、自らを裏切っている」と題した投稿を掲げた。今年ヨーロッパを目指して危険な旅に出る人は400,000名に上り、其の約半数はシリアの内戦やエリトリア政府の弾圧から逃れてきた人々である——そう説き起こしたソロスは、西暦1,956年のソ連軍侵攻で逃れたハンガリー人や、インドシナとバルカンの紛争で住む場所を追われた人々を国際社会が再定住させてきた前例を引き、足並みの揃わないEUを責めた。ハンガリーはセルビアとの国境沿いにフェンスを建て、フランスとオーストリアは国境でのパスポート検査を復活させていた。欧州委員会の移民アジェンダの内、即座に支持を得たのは密航業者を標的とする軍事作戦と送還の強化だけで、ギリシャとイタリアから庇護申請者40,000名を移す計画は、自発的な32,000名の受け入れに留まった。ソロスは、国外からの庇護申請の容認、シリア難民への就労ビザ、EU全体の庇護申請を一手に審査する単一の欧州庇護・移民機関、ゆくゆくは共同の国境警備隊の創設を提言する。本書は、此の投稿を起点として、EUの庇護・移民政策と、其れに立ち向かうマリーヌ・ル・ペンの歩みを、年月日単位で一元化した記録である。
2か月後の9月26日、ソロスは「庇護制度の再建」と題した2本目の投稿で、包括的な計画を6つの要素に分けて示した。EUは当面、少なくとも年間1,000,000名の庇護申請者を受け入れ、負担を公平に分担する。最初の2年間は庇護申請者1人当たり年15,000ユーロを拠出し、其の財源はEUのAAA格付けの借入余力を使った長期債で賄う。レバノン・ヨルダン・トルコで暮らす4,000,000名の難民を支える為、最前線の国々には少なくとも80,000,000,000〜100,000,000,000ユーロの拠出を約束する。単一の「EU庇護・移民庁」の構築に直ちに着手し、最終的には単一の「EU国境警備隊」を創設する。庇護申請者の為の安全な経路を確立し、NGO・教会団体・企業をスポンサーとして動員する——。同じ時期に6項目の計画を打ち出した第8代ハンガリー首相オルバーン・ヴィクトルに対しては、庇護申請者や移民の人権を国境の安全の下位に置き、EUを分断し破壊する恐れが有ると断じた。
5年後の西暦2,020年9月23日、欧州委員会は「移民と庇護に関する新協定」を発表する。欧州委員会副委員長マルガリティス・スキナスは、此の協定を3階建ての家に例えた。1階は出身国・通過国との協力、2階は域外国境の管理で、非正規の入域者の全員に5日以内の入域前スクリーニングを課し、指紋をユーロダックに登録する。3階は加盟国間の連帯と責任であり、ダブリン規則に代わる庇護・移民管理規則の下、連帯は「義務的だが柔軟」とされ、分担は人口とGDPで決められる。本書は、ソロスが5年前に説いた「責任の分かち合い」と、此の「義務的な連帯」とを、同じ時間軸の上に並べる。翌24日、第35代フランス内務大臣ジェラルド・ダルマナン等3名は、協定案を歓迎する共同声明を出した。一方、同日ブリュッセルで第13代欧州委員会委員長ウルズラ・フォン・デア・ライエンと会談したヴィシェグラード・グループは、協定を受け入れられないと表明する。チェコ首相アンドレイ・バビシュは難民の割り当ても移転も止めなければならないと語り、オルバーンは、難民申請が認められる迄は誰もEUに入れず域外に留め置く「ホットスポット」こそが突破口だと主張した。
西暦2,020年10月9日、第2代国民連合党首マリーヌ・ル・ペンは、ナンテールの国民連合本部で記者会見を開き、移民・難民に関する欧州協定に反対するキャンペーンを、フランス国内とヨーロッパで始めると発表した。協定は「ヨーロッパと、其れを構成する諸国家を水没させる為の組織的な計画」であり、数年の内に60,000,000〜70,000,000名の移民がヨーロッパに定住する可能性が有る——「正に悪魔との契約であり、ヨーロッパの自殺に繋がる」とル・ペンは断じ、社会保障制度の崩壊やイスラム主義の台頭を警告した上で、「ヨーロッパの鍵を、そしてフランスという家の鍵を取り戻そう」と呼び掛けた。翌西暦2,021年9月12日、ル・ペンは第12回フランス大統領選に専念する為に党首の座を退き、ジョルダン・バルデラが党首代行に就く。公約には、移民に関する国民投票の実施、庇護申請を在外のフランス大使館・領事館でしか受け付けない事、「国民優先」の憲法への明記、そして移民政策がEU法等を理由に裁判で覆されない様にする「憲法の盾」が並んだ。
西暦2,022年4月10日の第1回投票で、ル・ペンは得票率23.15%を得て、27.84%のエマニュエル・マクロンと共に決選投票へ進んだ。其の6日後の4月16日、フランスのニュースサイトであるメディアパルトが、EUのOLAF(不正対策局)の報告書を報じる。マリーヌ・ル・ペン、ジャン・マリー・ル・ペン、ルイ・アリオ、ブリュノ・ゴルニッシュの4名が議員割り当ての活動資金を個人的に不正流用したとして、計617,000ユーロ、其の内マリーヌには137,000ユーロの返還を求めるという内容で、西暦2,014年の国民戦線時代の党大会の為に購入した23,000ユーロ超の販促グッズや、4,000ユーロ超のボジョレーワインが流用の例に挙げられた。本書は、決選投票を8日後に控えた此の報道を、マクロン陣営がマリーヌを攻撃する為の暴露と位置付ける。マリーヌは「何が問題なのか分からない」と応じたが、4月24日の決選投票でマクロンは2選を果たした。
其の後もEUの制度作りは進む。西暦2,023年6月8日、EU理事会は、ダブリン規則に代わる庇護・移民管理規則と、域外国境に義務的な国境手続を導入する庇護手続規則の2つに就いて合意した。加盟国間の連帯は義務とされ、受け入れは年間30,000名以上、受け入れない場合は1人当たり20,000ユーロの拠出金が課される。そして西暦2,024年2月14日、欧州議会のLIBE(市民的自由・司法・内務)委員会が、移民・難民協定を構成する9法案の採決を行う。本書は、此の採決に票を投じた委員長ロペス・アギラール等5名の欧州議会議員が、西暦2,016年8月13日に流出した、ソロスが創設したオープン・ソサエティ財団の内部資料「マッピング:欧州議会に於ける信頼出来る味方(2014〜2019)」に名を連ねていた事を記録して幕を閉じる。西暦2,015年のソロスの2本の投稿から、西暦2,024年の欧州議会の採決まで——EUの庇護・移民政策が形を成してゆく過程と、其れに立ち向かうマリーヌ・ル・ペンの歩みを、本書は一冊に束ねている。
登場人物
- マリーヌ・ル・ペン 本書の中心人物。第2代国民連合党首。西暦2,020年10月9日、ナンテールの国民連合本部で移民・難民に関する欧州協定への反対キャンペーンを発表し、協定を「悪魔との契約」「ヨーロッパの自殺」と断じた。西暦2,021年9月、第12回フランス大統領選に専念する為に党首を退き、移民に関する国民投票・「国民優先」の憲法明記・「憲法の盾」等を公約に掲げる。第1回投票を得票率23.15%で通過したが、決選投票を前にOLAFの報告書を報じられ、エマニュエル・マクロンに敗れた。
- ジョージ・ソロス 西暦2,015年、欧州難民危機のさなかに、自身の公式サイトで「難民を救えないヨーロッパは、自らを裏切っている」「庇護制度の再建」の2本を投稿した。EUに年間1,000,000名以上の庇護申請者の受け入れと負担の公平な分担、庇護申請者1人当たり年15,000ユーロの拠出、単一の「EU庇護・移民庁」と「EU国境警備隊」の創設、安全な経路の確立等を説き、オルバーン・ヴィクトルの計画を、人権を国境の安全の下位に置くものと批判した。
- エマニュエル・マクロン フランス大統領。西暦2,022年の第12回フランス大統領選で、第1回投票を得票率27.84%の首位で通過し、決選投票でマリーヌ・ル・ペンを破って2選を果たした。本書は、決選投票の8日前に報じられたOLAFの報告書を、マクロン陣営がル・ペンを攻撃する為の暴露と位置付ける。
- ジョルダン・バルデラ 西暦2,021年9月12日、第12回フランス大統領選に専念する為に党首を退いたマリーヌ・ル・ペンに代わり、国民連合党首代行に就任した。ル・ペンの一時的な離任は、同年7月4日にペルピニャンで開かれた党大会で、予め表明されていたものである。
- オルバーン・ヴィクトル 第8代ハンガリー首相。西暦2,015年、欧州難民危機に対処する6項目の計画を打ち出し、ジョージ・ソロスから、庇護申請者や移民の人権を国境の安全の下位に置き、EUを分断し破壊する恐れが有ると批判された。西暦2,020年9月24日には、ヴィシェグラード・グループとして新協定を受け入れられないと表明し、難民申請が認められる迄は誰もEUに入れず域外に留め置く「ホットスポット」を突破口に挙げた。
- マルガリティス・スキナス 欧州委員会副委員長。西暦2,020年9月23日に発表された移民と庇護に関する新協定を「3階建ての家」に例え、1階を出身国・通過国との協力、2階を域外国境の管理、3階を加盟国間の連帯と責任として説明した。
- ウルズラ・フォン・デア・ライエン 第13代欧州委員会委員長。西暦2,020年9月24日、ブリュッセルにてオルバーン・ヴィクトル、マテウシュ・モラヴィエツキ、アンドレイ・バビシュと会談し、前日に欧州委員会が発表した新協定を、スロバキアを含むヴィシェグラード・グループとして受け入れられないと告げられた。
- ジェラルド・ダルマナン 第35代フランス内務大臣。西暦2,020年9月24日、市民権担当大臣マルレーヌ・シアパ、欧州問題担当閣外大臣クレマン・ボーヌと共に、共同声明「欧州委員会が提示した移民協定に対するフランスの見解」を出し、協定案の発表を歓迎した。声明は、域外国境の管理強化と二次移動の防止、再配置を軸とする加盟国間の連帯を求めている。
- アンドレイ・バビシュ 第12代チェコ首相。西暦2,020年9月24日、第9代スロバキア首相イゴール・マトビッチの代理も兼ねてウルズラ・フォン・デア・ライエンとの会談に臨み、「移民の流入も、難民の割り当ても移転も、止めなければならない」と語って、交付金の仕組みと割り当て制度の変更を求めた。
- ブリュノ・ゴルニッシュ 国民連合全国評議会委員で、全国幹部会メンバー。西暦2,022年4月16日に報じられたOLAFの報告書で、マリーヌ・ル・ペン等と共に議員割り当ての活動資金を個人的に不正流用したとされた4名の1人。西暦2,014年の国民戦線時代の党大会で、4,000ユーロ超のボジョレーワインを配った事が流用の例に挙げられた。
- リュドヴィク・ド・ダンヌ マリーヌ・ル・ペンの欧州問題担当顧問。OLAFは、ル・ペンと共に欧州議会会派「国家と自由の欧州」の代表と事務局長という立場で、党のイベントで生じた、欧州議会議員の職務とは関係の無い経費の払い戻し請求を承認していた事を問題に挙げた。
- ロペス・アギラール 第4代LIBE(市民的自由・司法・内務)委員会委員長で、欧州議会の会派「社会民主進歩同盟」所属。西暦2,024年2月14日、移民・難民協定を構成する9法案の採決に票を投じた1人で、西暦2,016年8月13日に流出したオープン・ソサエティ財団の内部資料「マッピング:欧州議会に於ける信頼出来る味方(2014〜2019)」に名が載っていた。
- ビルギット・ジッペル 欧州議会の会派「社会民主進歩同盟」所属で、スクリーニング(入域前審査)規則の報告者。西暦2,024年2月14日の採決に票を投じ、オープン・ソサエティ財団の内部資料「マッピング:欧州議会に於ける信頼出来る味方(2014〜2019)」にも名が載っていた。
主要な概念・用語
- 難民を救えないヨーロッパは、自らを裏切っている 西暦2,015年7月27日、ジョージ・ソロスが自身の公式サイトに掲げた投稿。欧州難民危機でEUが足並みを揃えられない現状を責め、国外からの庇護申請の容認、シリア難民への就労ビザ、EU全体の庇護申請を一手に審査する単一の欧州庇護・移民機関、共同の国境警備隊の創設を説いた。
- 庇護制度の再建 西暦2,015年9月26日、ソロスが続けて投稿した包括的な計画。年間1,000,000名以上の受け入れ、庇護申請者1人当たり年15,000ユーロの拠出とEUの長期債による資金調達、最前線の国々への80,000,000,000〜100,000,000,000ユーロの拠出、単一の「EU庇護・移民庁」と「EU国境警備隊」、安全な経路の確立、民間スポンサーの動員等、6つの要素から成る。
- 移民と庇護に関する新協定 西暦2,020年9月23日に欧州委員会が発表した協定案。副委員長マルガリティス・スキナスは3階建ての家に例え、出身国・通過国との協力、非正規の入域者への入域前スクリーニングと国境での迅速審査、ダブリン規則に代わる庇護・移民管理規則による「義務的だが柔軟」な連帯を柱とした。分担は人口とGDPで決める。
- 庇護・移民管理規則 ダブリン規則に代わり、どの加盟国が庇護申請の審査責任を負うかのルールを整理する規則。西暦2,023年6月8日にEU理事会が合意し、加盟国間の連帯を義務とした上で、受け入れ・拠出金・人員派遣・体制整備の支援から方法を各国が選べるとした。受け入れは年間30,000名以上、受け入れない場合の拠出金は1人当たり20,000ユーロ。西暦2,024年2月14日のLIBE委員会の採決は、賛成41・反対24・棄権2であった。
- 庇護手続規則 西暦2,016年の案を修正した、EU共通の庇護手続を定める規則。域外国境で新たに義務的な国境手続を導入し、EU全体で30,000名分の受け入れ能力を確保する。各国の割当は、過去3年間の非正規越境と入国拒否の件数を基にした計算式で決まる。西暦2,023年6月8日にEU理事会が合意し、西暦2,024年2月14日のLIBE委員会の採決は、賛成40・反対23・棄権4であった。
- 入域前スクリーニング 新協定で、非正規の入域者と海難救助後の下船者の全員に課される5日以内の審査。身元確認、健康と安全のチェック、指紋のユーロダック登録を行う。スクリーニング規則の報告者はビルギット・ジッペルで、西暦2,024年2月14日のLIBE委員会の採決は、賛成48・反対16・棄権2であった。
- ヴィシェグラード・グループ ハンガリー・ポーランド・チェコ・スロバキアの4か国。西暦2,020年9月24日、オルバーン・ヴィクトル、マテウシュ・モラヴィエツキ、アンドレイ・バビシュがウルズラ・フォン・デア・ライエンと会談し、新協定をグループとして受け入れられないと表明した。
- 憲法の盾 マリーヌ・ル・ペンが第12回フランス大統領選の公約として提案した仕組み。移民政策がEU法等を理由に裁判で覆されない様にするもので、移民に関する国民投票、在外公館に限った庇護申請の受け付け、「国民優先」の憲法への明記と並べて掲げられた。
- OLAF(不正対策局) EUの不正対策局。西暦2,022年4月16日、決選投票を前にメディアパルトが報じた其の報告書は、マリーヌ・ル・ペン、ジャン・マリー・ル・ペン、ルイ・アリオ、ブリュノ・ゴルニッシュの4名が議員割り当ての活動資金を個人的に不正流用したとして、計617,000ユーロの返還を求めるものであった。欧州議会会派「国家と自由の欧州」の代表と事務局長による経費の承認も問題に挙げている。
- LIBE(市民的自由・司法・内務)委員会 欧州議会の委員会。西暦2,024年2月14日、EU加盟国への移民の配分を正式に制度化し、受け入れを拒む国に罰則を科す事を意図した移民・難民協定の9法案を採決した。対象は庇護・移民管理規則、危機・不可抗力規則、スクリーニング規則、ECRIS-TCN関連、庇護手続規則、ユーロダック規則、資格規則、受け入れ条件指令、EU再定住枠組み規則である。
- マッピング:欧州議会に於ける信頼出来る味方(2014〜2019) 西暦2,016年8月13日に流出した、第8期欧州議会議員に関するオープン・ソサエティ財団の内部資料。西暦2,024年2月14日のLIBE委員会の採決に票を投じたロペス・アギラール、ビルギット・ジッペル、ソフィー・イン・ト・フェルト、マイテ・パガサウルトゥンドゥア、マリン・ビョルクの5名は、何れも此の資料に掲載されていた。
難民危機から欧州議会の採決まで──
ソロス、EU、マクロン陣営とル・ペンの攻防を一元化。
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