ASIが開発されたら99.9%の確率で
今後100年以内に人類はAIに滅ぼされると豪語した
ローマン・ヤンポルスキー一元化
ASIが開発されれば、人類が滅びる確率は99.9%──
「AIセーフティ」を生んだ男ローマン・ヤンポルスキーの論理を一元化。
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本書について
西暦2,011年10月、ギリシャのテッサロニキで開かれたカンファレンス「PT-AI(人工知能の哲学と理論)2011」で、一人の若き計算機科学者が査読付き論文「人工知能安全工学:何故機械倫理は間違ったアプローチか」を発表した。ルイビル大学助教ローマン・ヤンポルスキー、其の人である。彼は此の論文で「AIセーフティ」という用語を提唱し、カント倫理学や功利主義のどれを機械に実装すべきかを延々と論じる「機械倫理」では無く、本質的に安全で法を遵守する機械を設計する「AI安全工学」という新分野を確立すべきだと主張した。超知能を密封したハードウェアに閉じ込める「AI封じ込めプロトコル」、人間の介入無く何千世代もの自己改良に耐える安全機構——後に世界が直面する問いの多くが、此処に既に芽生えていた。本書は、其の歩みを年月日単位で一元化した記録である。
西暦2,016年、ヤンポルスキーは論文「人工知能の安全性とサイバーセキュリティ:AI失敗のタイムライン」で、西暦1,959年以降のAI障害事例を列挙し、AIの能力向上に比例して障害の頻度と深刻度が増大すると論じた。ソ連の核早期警戒システムの誤検知、1兆ドル規模のフラッシュ・クラッシュ、画像分類AIの幻覚——ナローAIの失敗はやり直しが効くが、AGIやASIではたった一度の失敗が回復不能な破局を招く。西暦2,018年の著書『人工知能の安全性とセキュリティ』で彼は、凡ゆるセキュリティシステムは何れ破られるという「セキュリティの基本定理」を掲げ、AGIの安全性問題を「安全な人間を作る問題」に還元してみせた。人類は数千年、文化・教育・法律・宗教で人間を安全にしようとして成功していない——超知能を相手にした敵対的テストは現在の技術では不可能であり、しかもチャンスは一度きりだと彼は結んだ。
西暦2,023年5月、AIによる人類絶滅のリスクをパンデミックや核戦争と並ぶ世界的優先事項とすべきだとするCAIS(センター・フォー・AI・セーフティ)の声明に、ジェフリー・ヒントンやサム・アルトマンら錚々たる顔ぶれと共にヤンポルスキーも名を連ねた。翌西暦2,024年、ニューズウィーク誌のインタビューと著書『AI:説明不能、予測不能、制御不能』で、彼は科学文献を広範に調査してもAIが制御可能だという証拠は見付からなかったと述べる。知能の低い人間が、より知能の高いASIを永続的に制御する事は出来ない——其れは安全な設計が見付からないのでは無く、其の様な設計が存在しないのだ、と。
そして西暦2,024年6月、レックス・フリッドマンのポッドキャストで、彼は本書の表題ともなった予測を口にする。ASIが開発された場合、今後100年以内にAIが人類を滅ぼす確率は99.9%である、と。此のゲームに勝つ唯一の方法は、プレイしない事だ——彼はそう言い切った。ヤンポルスキーはAIの齎す壊滅的リスクを三層に分類する。人類が死滅するX-risk、全員が死んだ方がましだと思う程苦しむS-risk、そしてAIが凡ゆる仕事と創造を上回り人間が存在意義を失うI-risk。其の何れもが、彼の99.9%という数字の内側に畳み込まれている。
西暦2,025年、ケンブリッジの研究者が111名のAI専門家を調査した論文は、ヤンポルスキーのP(doom)99%と、ヤン・ルカンの略0%という両極を対比し、専門家の見解がなぜ斯くも分かれるのかを問うた。其の一因は安全性研究そのものへの不同意では無く、道具的収束や一貫した外挿的意志といった概念への不慣れに有る——調査はそう結論づけた。同年9月、スティーブン・バートレットのポッドキャストでヤンポルスキーは、5年後には99%の失業率が訪れ、AGIは2年以内に到達し得ると語っている。警告は、止まない。本書は、「AIセーフティ」という言葉を生んだ男が、何故其の確率を99.9%と見積もるに至ったか、其の論理の全軌跡を一冊に束ねている。
登場人物
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ローマン・
ヤンポルスキー 本書の中心人物。ルイビル大学コンピュータ工学・コンピュータサイエンス学科助教。西暦2,011年に査読付き論文で「AIセーフティ」という用語を提唱し、AI封じ込めプロトコルやセキュリティの基本定理を論じた。ASIの制御は原理的に不可能であるとし、開発されれば今後100年以内に人類を滅ぼす確率は99.9%だと主張する、AI安全性研究の先駆者。 -
サミュエル・
バトラー 西暦1,863年の文章で「日々、機械は我々に対して優位を増している」と記したイギリスの小説家。ヤンポルスキーが最初の論文の結論で引用し、機械への警鐘の知的源流の一人と位置づけた。 -
セオドア・
カジンスキー ユナボマー・マニフェストで、人類が機械への依存を深め気付かぬ内に制御権を失うと予測した人物。ヤンポルスキーが、AGI研究の危険性を論じる文脈で言及した。 -
ジェフリー・
ヒントン 深層学習の基礎を築いた研究者。西暦2,023年、AIによる人類絶滅リスクを核戦争等と並ぶ優先事項とするCAISの声明に、ヤンポルスキーと共に署名した。 -
ヨシュア・
ベンジオ モントリオール大学教授でケベック人工知能研究所創設者。深層学習研究の第一人者として、CAISの声明に署名した。 -
サム・
アルトマン オープンAI社を率いる人物。GPTシリーズを世に送り出す立場にありながら、CAISの人類絶滅リスクに関する声明に署名した。 -
ダリオ・
アモデイ アンソロピック社共同創業者。AI開発の最前線に立ちつつ、CAISの声明に署名し、壊滅的リスクへの懸念を共有した。 -
デミス・
ハサビス ディープマインド社共同創業者。AI研究を牽引する立場から、CAISの声明に署名した。 -
スチュアート・
ラッセル カリフォルニア大学バークレー校教授。CAISの声明に署名し、西暦2,025年の専門家調査では、其の著述が世界観を変える「読書介入」の対象として用いられた。 - ヤン・ルカン 深層学習の主導者の一人。P(doom)を略0%と推定し、ヤンポルスキーの99%とは対極に立つ。専門家の見解の振れ幅を象徴する存在。
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レックス・
フリッドマン マサチューセッツ工科大学の研究者でポッドキャストの主宰者。西暦2,024年6月、ヤンポルスキーが「99.9%」という予測を語った対談の聞き手を務めた。 -
スティーブン・
バートレット ソーシャル・チェーン社共同創業者でポッドキャストの主宰者。西暦2,025年9月、ヤンポルスキーが5年後の大量失業とAGI到達を語った回の聞き手。 -
セヴェリン・
フィールド ケンブリッジの存在リスク同盟(ERA)のフェロー。西暦2,025年、111名のAI専門家を調査し、P(doom)を巡る見解の分裂の原因を分析した論文をarXivに投稿した。
概念と組織の系譜
- AIセーフティ ヤンポルスキーが西暦2,011年の査読付き論文で提唱した用語・分野。機械に倫理的判断をさせるのでは無く、本質的に安全で法を遵守する機械を設計する事を目指す。それ以前は「機械倫理」や「フレンドリーAI」と呼ばれていた。
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AI封じ込め
プロトコル 超知能を密封されたハードウェア内に閉じ込め、人間が自力で答えられる二択問題等の安全な質問のみを許可する方式。ヤンポルスキーが初期に提案した具体的な安全機構。 -
セキュリティの
基本定理 凡ゆるセキュリティシステムは何れ破られるとするヤンポルスキーの主張。サイバーセキュリティは失敗してもやり直せるが、AGIの安全機構が一度破られれば存在リスクとなり、やり直しは効かない。 - 制御不可能性 知能の低い人間が、より知能の高いASIを永続的に制御する事は出来ないとする論証。安全な設計が見付からないのでは無く、其の様な設計が存在しない——著書『AI:説明不能、予測不能、制御不能』の核心。
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X-risk・
S-risk・I-risk ヤンポルスキーによる壊滅的リスクの三分類。人類が死滅するX-risk、全員が死んだ方がましだと思う程苦しむS-risk、AIが凡ゆる仕事と創造を上回り人間が存在意義を失うI-risk。 - P(doom) AIが人類を滅ぼす確率を指す概念。ヤンポルスキーはASIが開発された場合の値を99.9%(P(doom)としては99%)と見積もる一方、ヤン・ルカンは略0%とし、専門家の間で極端に分かれる。
- 道具的収束 最終目標が何であれ、其の達成に役立つ自己保存・資源獲得・停止の阻止といった下位目標を、どんなAIも自然に追求する様になるという理論。専門家調査での認知率は21%に留まった。
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一貫した
外挿的意志 人間の矛盾に満ちた近視眼的欲求を其の儘AIに与えるのは危険だとし、人類がもっと賢く時間を掛けて考えたら望んだであろう事を推定して従わせるべきだという考え方。認知率は僅か8%であった。 - CAIS センター・フォー・AI・セーフティ。西暦2,023年、AIによる人類絶滅のリスク軽減を核戦争等と並ぶ世界的優先事項とすべきだとする声明を公表し、ヤンポルスキーを含む多数のAI研究者・著名人が署名した非営利団体。
此のゲームに勝つ唯一の方法は、プレイしない事だ──
AI制御不可能性の論証、其の全軌跡を一元化。
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