機械式腕時計
創業の歴史
一元化
西暦1,735年、スイスの片田舎から始まった──
機械式腕時計を生んだ作り手達の、創業の物語。
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本書について
西暦1,735年、ジャン・ジャック・ブランパンがスイスのヴィルレの村民名簿に時計職人として登録した。現存する時計ブランドとして最も古い部類に入る「ブランパン」の誕生である。本書は、此処を起点に、西暦2,001年のリシャール・ミルに至る迄、機械式腕時計を生んだ作り手達の「創業」の瞬間を、年月日単位で一元化した年表である。
舞台の中心は、スイスのジュラ地方とジュネーヴであった。ヴァシュロン・コンスタンタン、ブレゲ、パテック・フィリップ、オーデマ・ピゲ、ジャガー・ルクルト──時計史に名を刻む名門が、ル・サンティエやル・ブラシュ、ラ・ショー・ド・フォンといった小さな村や町の工房から生まれた。一方ドイツでは、フェルディナント・アドルフ・ランゲが衰退した町グラスヒュッテに移り住み、ドイツ高級時計の礎を築いた。
時計作りの仕組みもまた進化した。各工程を分業し半完成品を受け渡してゆくエタブリサージュ、部品から自社で一貫製造するマニュファクチュール。アントワーヌ・ルクルトは歯車と一体の小歯車「カナ」を切り出す機械を発明し、エグラー家はアンクル脱進機を搭載した小型ムーブメントで、西暦1,902年に女性用腕時計の量産を実現した。翌西暦1,903年には、飛行家サントス・デュモンの為にカルティエ初の男性用腕時計「サントス」が作られ、時計は懐中から手首へと移ってゆく。
大西洋を越えたアメリカでは、ランカスターやハミルトンの系譜が興っては再編を繰り返し、ボストン出身のジョーンズはスイスのシャフハウゼンにIWCを興した。そして二十世紀後半、諏訪精工舎の初代グランドセイコー、ブルガリやシャネルの参入、ウブロやフランク・ミュラー、リシャール・ミルの登場──時計の世界は絶えず新たな作り手を迎え入れてきた。本書は、ブランパンからリシャール・ミルに至る二百六十余年、約三十の作り手の創業譚を一冊に束ねた記録である。
登場人物
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ジャン・ジャック・
ブランパン 西暦1,735年、ヴィルレ(現在のスイス・ベルン州)の村民名簿に時計職人として登録され、「ブランパン」を設立した。現存する時計ブランドとして最も古い部類に入る。 -
ジャン・マルク・
ヴァシュロン 西暦1,755年、ジュネーヴのサン・ジェルヴェに開いた工房にイザヤ・ジャン・フランソワ・エティエを雇い、後の「ヴァシュロン・コンスタンタン」となる会社を設立した。 -
アブラアム・ルイ・
ブレゲ 西暦1,775年、パリのシテ島ロルロージュ河岸に「ブレゲ」となる工房を開いた。後進に多大な影響を与え、ランゲもパリでブレゲの弟子の下に学んだ。 -
アントワーヌ・
ルクルト 西暦1,833年、鋼鉄から歯車と一体の小歯車「カナ」を切り出す機械を発明し、ル・サンティエ(スイス・ヴォー州)の小屋を工房に変えて「ジャガー・ルクルト」を設立した。 -
アントニ・パテック
フランティシェック・
チャペック ポーランド人実業家パテックとチェコ人時計職人チャペックが、西暦1,839年5月1日、ジュネーヴに「パテック, チャペック社」を設立した。後の「パテック・フィリップ」の前身である。 -
フェルディナント・
アドルフ・ランゲ ドレスデン工科大学に学びグートケスに弟子入り、パリ等で修行した後、衰退した町グラスヒュッテに繁栄を齎すべく、西暦1,845年12月7日、15名の見習い工と共に移住し「A.ランゲ&カンパニー」を設立した。 - ルイ・ブラン 西暦1,848年、ラ・ショー・ド・フォン(スイス・ヌーシャテル州)に懐中時計組立の工房を開いた。此れが後の「オメガ」へと発展する。
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エドゥアルト・
ホイヤー 靴職人の息子。西暦1,860年、サン・ティミエに工房「エドゥアルト・ホイヤー・ウォッチメーカーズ」を設立した。後の「タグ・ホイヤー」である。 -
ジョヴァンニ・
パネライ 肉屋や理髪店等を営んだ人物。西暦1,860年、フィレンツェのグラツィエ橋に、販売店・工房・時計製造学校を兼ねた「オフィチーネ・パネライ」を設立した。 -
フロレンタイン・
アリオスト・ジョーンズ アメリカ・ボストン出身。西暦1,868年、スイスの職人技と安価な人件費を活かすべくシャフハウゼンに「IWC」を設立した。時計師モーザーの提案で滝の水力発電を採り入れた。 -
ジュール・ルイ・
オーデマ/エドワード・
オーギュスト・ピゲ 共に実家で時計製造を学んだ学友同士。西暦1,875年、ル・ブラシュ(スイス・ヴォー州)に「オーデマ・ピゲ」を設立した。オーデマがムーブメント製作を、ピゲが最終調整を担った。 - ルイ・カルティエ 第3代カルティエ経営者。西暦1,903年、飛行家サントス・デュモンの依頼で、フラットなフォルムと四角いベゼルを持つカルティエ初の男性用腕時計「サントス」を製作した。
-
ハンス・
ウィルスドルフ 西暦1,905年、ロンドンのハットンガーデンに時計商社「ウィルスドルフ&デイビス」を設立。ジャン・エグラーの機械を輸入して時計製造販売も行った。後の「ロレックス」創業者である。 - 諏訪精工舎 西暦1,960年12月18日、初代「グランドセイコー」を発売した。本書で唯一の日本の作り手であり、機械式高級時計に新たな地平を開いた。
- リシャール・ミル 宝飾ブランド、モーブッサンのCEO等を経て、西暦2,001年に「リシャール・ミル」を設立した。本書の年表が結ばれる、最も新しい作り手。
主要な概念・用語
- エタブリサージュ 各工程を分業し、半完成品を次の作業者へ回してゆく時計の分業生産方式。西暦1,832年、オーギュスト・アガシがサン・ティミエに此の方式の工房を構えた。
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エボーシュ
ムーブメント 半完成品の状態のムーブメント。エタブリサージュでは此れを工房間で受け渡しながら時計を仕上げた。 - マニュファクチュール 部品から自社で一貫製造する体制。西暦1,881年、エグラーの工房が此れに至った。
- アンクル脱進機 歯車を一定速度で回転させる脱進機。エグラー家は此れを搭載した小型ムーブメントを開発し、西暦1,902年に女性用腕時計の量産を始めた。腕時計普及の鍵となった。
- カナ 歯車と一体になった小さな歯車(ピニオン)。西暦1,833年、アントワーヌ・ルクルトが鋼鉄から此れを切り出す機械を発明した。
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懐中時計から
腕時計へ 時計の主役が懐中時計から腕時計へ移る転換。女性用はエグラー家が量産(西暦1,902年)、男性用はカルティエ「サントス」(西暦1,903年)が先駆けとなった。 - グラスヒュッテ 嘗て銀採掘で栄え衰退したザクセンの町。フェルディナント・アドルフ・ランゲが移住して以降、ドイツ高級時計の聖地となり、後にノモス・グラスヒュッテ等も拠点を置いた。
ブランパンからリシャール・ミルまで──
約三十の名門が産声を上げた瞬間を一元化。
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