円周率の歴史
一元化
粘土板に刻まれた3.125から、数百万桁の彼方へ──
人類が円周率に挑み続けた四千年の全記録。
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本書について
円とその直径の比、円周率。紀元前2,000年頃、バビロニアのスーサで粘土板に円を刻んで測られた近似値から、西暦2,000年、電子計算機が数百万桁を吐き出すに至るまで。本書は、人類が四千年に亘って此の終わりなき数に挑み続けた歩みを、一本の時系列に貫き、一元化した一冊である。
紀元前1,650年頃、古代エジプトの神官アハメスはパピルスに π=256/81 と記し、一桁の精度を得た。紀元前250年頃、アルキメデスは著書「円周の測定」にて正九十六角形を用い、223/71<π<22/7 という上下界を与えて二桁の精度に達した。やがて中国の祖沖之は π=355/113(密率)という驚異の近似を残す。誰が、何時、何処で、如何なる式と方法で円周率に挑み、何桁の精度を得たのか──其の全てが、得られた桁の実数と共に記録されている。
時代が下ると、無限級数が円周率の計算を一変させる。マーダヴァやライプニッツの級数、そしてジョン・マチンの逆正接公式が、手計算の精度を飛躍的に押し上げた。西暦1,949年、世界初の汎用電子デジタル計算機ENIACは、70時間を費やして2,037桁を計算する。西暦1,954年にはIBM NORCが僅か13分で3,089桁に到達し、計算は機械の時代へと移っていった。
「○桁の精度を得る」。此の簡潔な一文が、四千年分くり返される。やがて精度は数千桁を超え、西暦1,986年1月のある計算は、本書の中で約四千ページに亘って、ただ数字を連ね続ける。本書は、円とその直径が結ぶ終わりなき探究の全過程を、年月日単位で記録した年表である。円周率に、終わりはない。
登場人物
- アハメス 古代エジプト第12王朝の神官。円の直径からその1/9を引いた長さを一辺とする正方形の面積を円の面積に等しいとし、カミガヤツリから作られたパピルスに π=256/81 を記して一桁の精度を得た。
- アルキメデス 古代ギリシアの数学者。著書「円周の測定」にて円に内接・外接する正九十六角形を用い、223/71<π<22/7 という上下界を導いて二桁の精度を得た。以後二千年に亘り標準とされる「アルキメデスの方法」を確立した。
- 祖沖之 中国・南朝の数学者・天文学者。π=355/113(密率)をはじめとする極めて高精度の近似を与え、長く世界最高水準の精度を保った。
- ジョン・マチン イギリスの数学者・天文学者。逆正接(arctan)の組み合わせによる級数(マチンの公式)を導き、円周率の計算を大きく加速させ、手計算による多桁計算の道を開いた。
- ジョン・プレスパー・エッカート/ジョン・モークリー ペンシルベニア大学にて世界初の汎用電子デジタル計算機ENIACを設計した二人。西暦1,949年、ENIACは70時間を費やして円周率2,037桁を計算した。
主要な概念・手法
- 正多角形による近似 円に内接・外接する正多角形の周や面積を計算し、円周率の上下界を求める方法。アルキメデスが正九十六角形で用い、角数を増やすほど精度が高まる。
- 無限級数 項を限りなく加えることで円周率に収束する級数。マーダヴァ・ライプニッツ級数などが知られ、幾何学的な多角形法に代わる計算の主役となった。
- マチンの公式 逆正接関数の組み合わせで円周率を表す式。収束が速く、電子計算機以前の高精度な手計算を可能にした。
- 「○桁の精度を得る」 本書を貫く記述形式。各時代の到達点が、その時得られた小数の桁数とともに、もれなく示される。
- 電子計算機による計算 ENIAC・IBM NORC を皮切りに、計算機の性能向上とともに桁数は数千・数万・数百万へと爆発的に伸びていった。
一桁の近似から、終わりなき数列へ──
円周率を追い求めた人類四千年の到達点。
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