電子書籍「ヨシュア・ベンジオが唱えるAIによる人類絶滅リスクに対する肯定派・否定派一元化」の表紙

ヨシュア・ベンジオが唱える
AIによる人類絶滅リスクに対する
肯定派・否定派
一元化

著者:石田晋一

掲載範囲
西暦2,023年5月30日〜2,025年10月5日
ページ数
5ページ
文字数
3,416字
最新更新日
西暦2,026年8月14日

「核戦争やパンデミック並みのリスク」か、杞憂か──
AI絶滅リスクを巡る肯定派と否定派の議論を一元化。

168円(税込)

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皇室献上品 高級トイレットペーパー
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本書について

AIは、いつか人類を絶滅させうるのか——此の問いに対する答えは、AI研究の最前線に立つ者達の間でさえ、真っ二つに割れている。本書は、モントリオール大学コンピュータサイエンス教授でケベック人工知能研究所創設者のヨシュア・ベンジオの主張を軸に据え、AIによる人類絶滅リスクを巡る肯定派と否定派の言葉を、声明・ブログ・論文・記事といった出典と共に年月日単位で一元化した記録である。

端緒は西暦2,023年5月30日であった。非営利団体CAIS(センター・フォー・AI・セーフティ)が「AIによる人類絶滅のリスクを軽減する事は、パンデミックや核戦争等の他の社会規模のリスクと並んで、グローバルな優先事項であるべきだ」とする声明をホームページに掲載する。CAISが示唆したのは、①薬物発見ツールが化学兵器の構築に使われる様なAIの武器化、②AI生成の誤情報による社会の不安定化と集団的意思決定の毀損、③AIの力が少数の手に集中し、広範な監視と抑圧的な検閲を通じて狭い価値観を強制する体制、④映画「ウォーリー」に似た、AIへの依存による人間の衰弱化——という4つのシナリオであった。此の一文の声明に、ジェフリー・ヒントン、ヨシュア・ベンジオ、デミス・ハサビス、サム・アルトマン、ダリオ・アモデイ、ビル・ゲイツ、イリヤ・サツケバー、スチュアート・ラッセル等、研究者・経営者・政治家・活動家が国境を越えて署名した。

同年6月24日、ベンジオは自身のブログで、より踏み込んだ数字を出す。95%の確率で、人間を超える能力を持つAIが5〜20年以内に登場する——そして其れが人類の価値観と一致しない場合、深刻な脅威となる。リスクの原因として彼が挙げたのは、①スケーリングや推論能力の向上によるAIの急速な進化、②自然言語インターフェースがもたらすアクセシビリティ、③報酬学習による目標追求という自律性の3点であった。不確実性が高いからこそ即時行動しなければならない、として、ベンジオは規制投資・安全研究・国際条約を説き、安全なAIで悪用を防ぎ利益を公平に分配する事は道徳的義務である、と結んだ。

西暦2,023年9月、ベンジオの論文「人工知能と破滅的リスク」がジャーナル・オブ・デモクラシー誌に掲載される。彼は、AIのリスクを①選挙干渉や生物兵器等の意図的誤用と、②制御不能な不正AIによる人類絶滅とに分類し、商業的インセンティブが進歩とリスクの双方を加速させる為に安全研究が緊急である事、民主主義のチェック・アンド・バランスがAIガバナンスに不可欠である事を主張した。対策として彼が構想したのは、民主主義国家間で連携した独立非営利研究ラボのネットワークであり、政府主導の資金で安全な防御AIを開発し、研究を機密扱いとし、軍事・経済的優位より人類の防衛を優先する、というものであった。此の論文の中でベンジオは、ヤン・ルカンの様な絶滅リスク否定派との意見の相違を、自ら認めてもいる。

そして西暦2,025年、議論は次の段階へ進む。7月11日、ブルッキングス研究所非常勤上級研究員マーク・マッカーシーが「AIによる存在リスクは現実のものなのか―そして私達はどう対処すべきか?」と題した記事を掲載し、ベンジオのサブゴール論を引いた上で、存在リスクは現実的だが過大評価されており、近い将来に発生する可能性は低いと論じた。現在のAIからAGIへ進化し自己改善の連鎖で超知能が生まれるというシナリオは、データ量や計算リソースを増やしても性能向上の割合が減っていく収穫逓減によって遠のいている——だから政策立案者は、資源の制約を踏まえ、バイアスや誤情報といった緊急の害への対応を優先すべきだ、と。対して10月5日、BGF(ボストン・グローバル・フォーラム)CEOグエン・アン・トゥアンは、ウォール・ストリート・ジャーナル紙でベンジオへの支持を表明し、人間中心のAI開発と集団的利益の為のグローバル協力を訴えた。一つの問いを巡って交わされた賛否の言葉を——其の論拠と、確率と、危機感の濃淡を——本書は一冊に束ねている。


登場人物

  • ヨシュア・ベンジオ 本書の中心人物。モントリオール大学コンピュータサイエンス教授で、ケベック人工知能研究所の創設者。西暦2,023年5月30日のCAIS声明に署名し、6月24日のブログでは人間を超えるAIが5〜20年以内に登場する確率を95%と見積もった。同年9月の論文「人工知能と破滅的リスク」では、リスクを意図的誤用と制御不能な不正AIとに分類し、民主主義国家間で連携した非営利研究ラボのネットワークを提唱している。
  • CAIS(センター・フォー・AI・セーフティ) 非営利団体。西暦2,023年5月30日、AIによる人類絶滅リスクの軽減をパンデミックや核戦争と並ぶグローバルな優先事項とすべきだとする声明をホームページに掲載した。AIの武器化、誤情報による社会の不安定化、権力の集中、人間の衰弱化という4つのシナリオを示唆し、議論の口火を切った団体である。
  • ジェフリー・ヒントン CAISの絶滅リスク声明に署名した人物として、本書が最初に名を挙げる研究者。ベンジオと共に、AIによる人類絶滅リスクを公に認めた側に立った。
  • デミス・ハサビス AI研究開発企業であるディープマインド社の共同創業者。CAISの声明に署名した。同社からは他に、共同創業者のシェーン・レッグとムスタファ・スレイマン、主任研究員のデイヴィッド・シルバーとイアン・グッドフェロー、COOのリラ・イブラヒムも署名に加わっている。
  • サム・アルトマン CAISの声明に署名した経営者の1人。同じオープンAI社からは、共同創業者のイリヤ・サツケバー・ジョン・シュルマン・ヴォイチェフ・ザレンバ、及びミラ・ムラティも名を連ねた。
  • ダリオ・アモデイ アンソロピック社の共同創業者。CAISの声明に署名した。同社共同創業者のダニエラ・アモデイも署名者に含まれている。
  • スチュアート・ラッセル カリフォルニア大学バークレー校コンピュータサイエンス学部教授。CAISの声明に署名した。同学部からは教授のドーン・ソング、助教授のアンカ・ドラガンも署名している。
  • ダン・ヘンドリックス xAI社の安全アドバイザー。CAISの声明に署名した。同社からは共同創業者のイゴール・バブシュキンと呉宇懐も名を連ねている。
  • ヤン・ルカン AIによる人類絶滅リスクの否定派として、ベンジオが論文「人工知能と破滅的リスク」の中で意見の相違を認めた相手。肯定派の主張が一枚岩ではない事を示す、本書のもう一方の極である。
  • マーク・マッカーシー ブルッキングス研究所非常勤上級研究員。西暦2,025年7月11日、「AIによる存在リスクは現実のものなのか―そして私達はどう対処すべきか?」と題した記事を掲載し、ベンジオのサブゴール論を引きつつ、存在リスクは現実的だが過大評価されており近い将来の発生可能性は低いとして、バイアスや誤情報等の緊急の害への対応を優先すべきだと主張した。
  • グエン・アン・トゥアン BGF(ボストン・グローバル・フォーラム)CEO。西暦2,025年10月5日、ウォール・ストリート・ジャーナル紙でベンジオの懸念への支持を表明し、イノベーションと絶滅の岐路に立つ緊急性を強調して、人間中心のAI開発と集団的利益の為のグローバル協力を訴えた。
  • ビル・ゲイツ CAISの声明に署名した人物の1人。署名者にはアメリカ下院議員テッド・リエウ、ハーバード大学憲法学名誉教授ローレンス・トライブ、中華民国初代数位発展部長唐鳳、環境保護活動家ビル・マッキベン等も含まれ、其の広がりはAI研究の枠を大きく越えている。

肯定派と否定派の論点

  • 「核戦争やパンデミック並み」か 絶滅リスクの軽減を他の社会規模のリスクと同列に置くべきだとする、CAIS声明の中心命題。肯定派の出発点であり、署名という形で数百人が態度を表明した点で、以後の議論の土台となった。
  • ベンジオの「95%」 人間を超える能力を持つAIが5〜20年以内に登場する確率を95%と見積もる推定。急速な進化・アクセシビリティ・自律性を根拠とし、不確実性の高さこそが即時行動の理由になる、という論法を採る。
  • サブゴールと自己目標 開発者がAIに目標を設定すると、AIが其の達成の為に独自のサブゴールを形成し、其れが環境の理解・制御や自らの生存といった危険なものになりうるという懸念。マッカーシーが反論の際に引用した通り、賛否双方が共有する論争の焦点である。
  • 意図的誤用か、制御不能か ベンジオが論文で立てた分類。選挙干渉や生物兵器といった人間の側の悪用と、不正AIによる制御不能な絶滅とでは、必要な対策も緊急度も異なる。同じ「AIリスク」という語の下に、性質の違う二つの危険が同居している事を示す。
  • 収穫逓減という反証 否定派の主要な論拠。西暦2,024年時点で、データ量や計算リソースを増やしてもモデルの性能向上の割合が次第に減少するというトレーニングの現象が観測されており、AGIから超知能への自己改善の連鎖を遠いものにしている、とマッカーシーは論じた。
  • 民主主義と国際協力 対策の方向を巡る論点。ベンジオは民主主義のチェック・アンド・バランスをAIガバナンスに不可欠とし、独裁体制の過信や権力指向の決定がリスクを増大させると説いた。トゥアンも人間中心のAI開発とグローバル協力を訴え、此の線で肯定派は繋がっている。

CAISの一文の声明から、ベンジオの「95%」まで──
AIは人類を絶滅させうるのかを巡る議論の全軌跡を一元化。

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AUTHOR

石田晋一

歴史データベース「トキジク」管理人。
万物の系譜の編纂者であり、電子書籍の著者。
YouTubeとニコニコでも情報を発信中。